最新記事

米経済

政治も経済も......世界は「中心」なき時代へ

2018年2月1日(木)16時30分
ローレンス・サマーズ(元米財務長官)

アメリカ政治の中心は失われているが金融市場の見方は驚くほど楽観的だ GEARSTD/GETTY IMAGES

<株価高騰でも拭えない不安とリスク――トランプ時代のアメリカと世界は崩壊の予感の中でいかに動くべきか>

全てがばらばらになり、中心は持ちこたえられない――アイルランドの詩人、W・B・イエーツのこの恐るべき予言が現実になるのか。これこそ、17年の出来事を経たアメリカが、そして多くの意味で世界全体が直面している最も重要な問いだ。

イエーツが書いたように「最良の者はあらゆる信念を欠き、最悪の者が情熱的な激烈に満ちる」状況が続くのか。懸念を覚えずにいられないが、崩壊を予測するにはまだ早い。

いまアメリカ大統領の座にあるのは核武装した国の指導者や米メディア、自身の政権のメンバーや宗教的・人種的マイノリティーにツイッターで毒舌を浴びせる人物だ。その一方で、彼は民主主義や寛容、国際法の価値を愚弄する人々をひたすら称賛する。

中国やロシア、トルコ、サウジアラビアは1年前に比べて、より独裁主義的でナショナリスト的になり、国際社会で攻撃的な姿勢を強めている。さらに、北朝鮮という存在もある。核弾頭と長距離弾道ミサイルの実戦配備に突き進む同国の指導者は輪を掛けて好戦的で、行動が読めないという点でもおそらく群を抜いている。

ヨーロッパも昨年は試練にさらされた。9月に行われたドイツの総選挙では、極右の民族主義政党がほぼ60年ぶりに連邦議会に議席を獲得して第3党に躍進。欧州の多くの国の選挙で極右政党がこれまでにない台頭を見せ、ポーランドの首都ワルシャワでは11月、「ヨーロッパは白人の地」と主張する極右デモに約6万人が参加した。

そう、確かに世界には「情熱的な激烈」があふれている。その標的は、人類史上最良の時代をもたらした伝統や知識だ。こうした伝統や知識が培われてきたからこそ、生活水準の向上、抑圧からの解放、科学的進歩や芸術の発展、苦痛の軽減、残酷な形の死の最少化という面で人類は過去数十年間、素晴らしい時代を謳歌できた。

全てはばらばらにならずにいられるか。何らかの中心が保たれるのか。金融市場の見方は驚くほど楽観的だ。16年米大統領選でドナルド・トランプが勝利してからの1年間、米株式市場は記録的上昇を続ける一方、実際の市場でも将来予測でもボラティリティー(変動性)指数は歴史的基準に照らして極めて低い。さらに世界には、アメリカよりも好調な株式市場もある。

高い株価と低いボラティリティーの組み合わせは意外に思えるかもしれない。だがこれは、地政学的事件と株式市場の動向には限定的な関係しかないことを示しているのではないか。

例えば日本軍による真珠湾攻撃、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺や9.11テロのときも、米経済に持続的な影響はなかった。87年10月のブラックマンデーをはじめとする米株式市場の大変動は概して、とりたてて大きな事件がないときに起きている。

株価が高騰しているのは、株式市場が個々の企業によって構成されているからだ。昨年1年間、企業収益は驚くほど増加するとともに、驚くほど予想どおりの動きを示していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中