最新記事

生態学

蚊にも学習能力があることが判明!  疫病感染予防に期待も

2018年2月1日(木)20時00分
モーゲンスタン陽子

蚊にも学習能力があることが判明! auimeesri- iStock

<蚊は人間に叩かれそうになると、危険を避けるために、その人の体臭を覚えてその臭いを避ける「記憶・学習能力」があるという研究結果が発表された>

他の人より蚊に刺されやすいという人がいる。また、ふだんは刺されにくい人でも、スポーツをして汗をかいたり、お酒を飲んだりすると刺されやすくなるということもある。蚊が人間の選り好みをすることは長年言われてきたが、何がその基準となるのかは謎が多かった。

ところが1月25日、アメリカの生物学系学術誌Current Biologyに、蚊は人間に叩かれそうになると、危険を避けるために、その人の体臭を覚えて24時間以上にわたってその臭いを避ける「記憶・学習能力」があるという史上初の研究結果が発表された。

「パブロフの犬」と同じ

「基本的にはパブロフの蚊だ」と、執筆者の一人、ワシントン大学の神経生態学者ジェフ・レフェル教授は言う。パブロフの犬の実験は、特定の音と餌を与えるタイミングを合わせて繰り返す(「条件付け」)と、犬はその音を聞いただけで唾液を分泌するようになる(「条件反射」)というものだが、蚊の場合もそれと同じらしい。

レフェルの実験チームはまず、人間の体臭を染み込ませた袖と、無臭の袖を用意した。すると、蚊は人間の臭いのする袖の方を好んだという。次に、人間が腕を叩くときの動きを模した機械の振動と人間の臭いとの組み合わせに20分間蚊をさらし、それらを使って最初と同じ実験をしたところ、蚊は人間の臭いのする袖を避けるようになったという。

この効果は、「訓練されていない」蚊が一般的な虫除けスプレーを避けるのとほぼ同じくらいの割合だという。またレフェルは、「しかも、蚊は学んだ臭いを何日も覚えている」と言う(ワシントン大学ニュース)。

蚊に刺されやすい人は、たとえ命中しなくても、叩く行為を続けた方がよさそうだ。

疫病撲滅にも期待

さらに研究で、蚊の、体臭と死の危険の条件付けに脳内科学伝達物質ドーパミンが関連することがわかった。チームによってドーパミン神経システムにダメージを与えられた蚊は、臭いと振動の関連性を学習することができなかったという。

学習能力が確認されたのは黄熱、デング熱、ジカ熱などを媒介するネッタイシマカという種類だが、この能力が見られない種類もあった。人間もそうだが、種のもつ嗅覚の受容体によりすべての臭いを感じ取れるわけではない、というのが原因のようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

植田総裁、21日から米国出張 ジャクソンホール会議

ビジネス

中国のPEセカンダリー取引、好調続く見通し 上期は

ワールド

マスク氏が第3政党計画にブレーキと報道、当人は否定

ワールド

訪日外国人、4.4%増の340万人 7月として過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中