最新記事

中国戦略

孔子学院が遂にFBI捜査の対象に

2018年2月20日(火)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日本では、昨年12月21日のコラム「バノン氏との出会い――中国民主化運動の流れで」に書いたシンポジウムで上映された。監督はドリス・リュウ氏。

映画「孔子の名において」の中でインタビューに答えた政治学者で中国問題専門家のクレイブ・アンスレイ氏は、「孔子学院で、孔子哲学や儒教を学ぶことはできない。そもそも(孔子哲学は)中国共産党が文化大革命により破壊した価値観なのだ。孔子学院は、共産党イデオロギーを広める政治機関だ」と問題性を指摘している。

さらに同氏は、「文化大革命時、極左思想の横行で寺社や孔子廟の破壊、歴史的遺産が壊され、既存の伝統的価値が中国から取り除かれていった。今日、中国共産党はその野蛮さの手法をソフトに変容させ『教育』と偽って党の宣伝を広めている。孔子の名のもとに...」と分析した。

孔子批判から孔子学院推進への方針転換に関する中国の思惑

まさに、その通りだ。あれだけ激しい批判の対象としていた孔子を、今度は180度方針転換して肯定しただけでなく、孔子学院を設立して全世界を洗脳しようというのは何ごとか。

毛沢東が中国を建国して以来の「孔子」に対する意識の変遷に関して少しだけ考察してみよう。

1949年に新中国(中華人民共和国)が建国されたが、50年代の時には、毛沢東は決して孔子を否定していなかった。それどころか、毛沢東は50年代初期に山東省の曲阜に赴き、孔子廟を礼拝したほどである。ところが文化大革命(1966~76年)期間の1972年に林彪がクーデターを起こそうとしたことから林彪批判とともに孔子批判が始まり「批林批孔」として激しい闘争が繰り広げられた(なぜ林彪と孔子が組み合わされた形で批判の対象となったかに関しては諸説あるので、ここでは省略する)。

1978年12月から改革開放が始まったが、その時はまだ孔子批判が覆ることはなかった。

ところが1989年6月4日に天安門事件が起き、中共中央総書記に急遽抜擢された江沢民は、1994年から愛国主義教育を始めた。天安門事件は改革開放された窓から吹き込んでくる欧米の民主主義的価値観に基づく新鮮な息吹に憧れを持った若者たちが民主化を叫んだのだとして、愛国主義教育では「中国にも伝統的な文化や思想がある」と主張している。

この時点から「欧米に憧れるな!中国にも良いものがある!」という洗脳が始まった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中