最新記事

メディア

イラン王政懐古の掛け声は衛星波に乗って広がる

2018年1月30日(火)17時20分
ナルゲス・バジョグリ

イラン革命によって国を追われるパーレビ国王夫妻(79年1月16日) PUBLIC DOMAIN/WIKIMEDIA COMMONS

<革命から39年、王政時代に憧れる若者たち。その裏に亡命者の思惑と巧妙なメディア戦略が>

「革命を起こしたのは間違いだ!」「レザ・パーレビ!」

パーレビ王朝を打倒した1979年のイラン革命から今年1月で39年。昨年12月28日に発生しイラン各地に飛び火した反政府デモで、参加者の一部からは故モハマド・レザ・パーレビ元国王の長男の名前を叫ぶ声が上がった。

レザ・パーレビ元皇太子は57歳の今も亡命先のアメリカで暮らしており、今さら王座に返り咲くとは思えない。一方、イランのデモ参加者の大部分は20代以下――つまり自分が知らない王朝の復活を要求しているわけだ。彼らの真剣さを疑うわけではないが、政治的見解については説明が必要だろう。なぜいま若者たちはパーレビ王朝復活を求めているのか。

原因は一言で言えばテレビ、とりわけ亡命イラン人による衛星放送のせいだ。

革命当初の亡命者はほとんどが国王の支持者で、彼らの多くがロサンゼルスに住み着いた。1990年代前半から、こうした亡命者の一部は祖国に向けて放送を開始した。

政府は当初、必死に放送をブロックしようとした。警察や治安部隊が民家を強制捜索。屋根やベランダや居間にこっそり設置された衛星放送受信アンテナを探し出して没収した。

しかし90年代後半~2000年代前半に受信アンテナの低価格化・小型化が進み、エリート層でなくても購入でき、隠れて設置しやすくなった。しまいには当局が検挙し切れないほど普及。地元メディアによれば、総人口の70%以上が衛星テレビを視聴しているという。

受信アンテナの普及につれて、国外からペルシャ語のテレビ番組を放送するチャンネルの数も膨れ上がった。今では数十チャンネルがイラン向けに24時間ペルシャ語放送を行っている。こうした衛星チャンネルは、製作者と資金提供者の政治的背景こそさまざまだが、いずれもイスラム共和制を拒否している。これらの衛星チャンネルと、亡命者が運営する数々のウェブサイトやラジオ局が、文化とメディアをイランの政治闘争の主要な戦場にしている。

最高指導者アリ・ハメネイは、欧米と亡命者がイランに対し、主にメディアを武器にして侵略する「ソフトウォー」を仕掛けていると繰り返し主張。このメディアによる侵略に新たな番組編成で反撃するよう、保守派民兵組織バシジと国営メディアに指示している。

だが視聴者を引き付けているのは、味気ない国営メディアではなく、外国の放送チャンネルだ。14年、国営文化交流センターの責任者は次のように語った。「国営テレビはつまらなくて壁に頭をぶつけたくなる。どのチャンネルでも年取った聖職者がどう生きるべきかを説教している。若者が見なくても責められない。私は現体制を支持し、イラン・イスラム文化の促進に努めているが、その私だって見やしない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の年央最大商戦「618」、盛り上がりを欠いたま

ワールド

財政危機のバチカン、新教皇レオ14世の動画で献金呼

ビジネス

焦点:FRBは慎重姿勢、関税リスク巡る市場の不安消

ビジネス

経済・金融見通し、極めて不確実 スイス中銀が警告
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 7
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 8
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 9
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中