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イラン王政懐古の掛け声は衛星波に乗って広がる

2018年1月30日(火)17時20分
ナルゲス・バジョグリ

コンテンツは欧米並みに

イラン向けの衛星放送は始まって20年以上になるが、劇的に変わったのはこの10年だ。09年以前に衛星テレビで放送される番組は、政治亡命した世代のニュースやニュース分析、革命前のイランの連続ドラマの再放送、ロサンゼルス在住のイラン系ポップス歌手のミュージックビデオがほとんどだった。パーレビ政権下のイランに対する郷愁を誘おうとした例もあったが、講義形式で内容も退屈になりがちだった。

だが09年の英BBCペルシャ語放送の登場を皮切りに、イラン向け衛星テレビ局の質は変わった。現在では欧米並みの高水準が当たり前のようになっている。だが何より重要なのは、コンテンツが劇的に向上したことだ。想定する視聴者層にアピールするパーレビ王朝寄りのニュースや娯楽番組がついに提供されようとしている。

なかでもこうした変化をリードし多くの視聴者を獲得している放送局が、10年にロンドンから衛星放送を開始したマノト。『ダウントン・アビー』など欧米の人気ドラマのペルシャ語吹き替え版から、大ヒットした30分のニュース番組『ニュースルーム』までとラインアップは幅広い。

『ニュースルーム』では毎回、タッチスクリーン式のパソコンの前に座った若いジャーナリスト4人が、司会者の進行でイランの時事問題について議論を交わす。全員がファーストネームで呼び合うのは、格式を重んじるイランのニュース業界では前代未聞だ。

マノトはたちまちイランの一般家庭におけるテレビ番組のあるべき姿の見本となった。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)やBBCほど政治色が露骨でないところも、若者を中心に視聴者を引き付けている。しかしそれは国内外のライバルと同じく思惑があってのことだ。

それが特に顕著に表れているのがマノトの娯楽番組だ。リアリティーTV、ゲーム、歴史ドキュメンタリーなど多彩なラインアップで、10年以降は革命前のイランを賛美する傾向を強めている。

「古きよきイラン」を演出

なかでも昨今の王政回帰ムードを理解するカギといえる番組が『タイムトンネル』。『ニュースルーム』の人気司会者の1人を進行役に古い記録映像やドキュメンタリー、写真などを使って革命前のイランを描き出す。革命以前の文化をノスタルジックに見せる。ベールから解放されたミニスカートの女性たち。ナイトクラブとアルコールとダンスがあふれる音楽シーン......。要するに、革命を境に禁じられ、特に若者が待望している側面を見せるのだ。

決め手は、『タイムトンネル』が批判をしないことだ。見終わったときには、イランの何もかもが完璧で穏やかで、何より楽しいと思えた時代への憧れしか残らない。当時の抑圧や格差の蔓延には一切触れない。視聴者を「何もかも完璧だったのに、なぜ革命なんか起こしたんだ」という気持ちにさせる。

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