最新記事

ロシア

プーチンは第3次世界大戦を目指す

2017年12月26日(火)17時15分
オーエン・マシューズ(モスクワ)

さらにロシアは10月、アメリカの同盟国サウジアラビアに30億ドルのミサイルを売却する契約も成立させた(サウジはミサイルを、イエメンのシーア派武装勢力ホーシー派のロケット攻撃を防ぐために使うつもりだ)。

旧ソ連の崩壊以来、ロシアがこれほど軍事力を見せつけた時期はなく、偶発的な軍事衝突の可能性は高まっている。

11月にはロシア軍機がクリミア沖の10キロ上空で、米哨戒機に急接近した(ロシアなど8カ国だけがクリミアをロシア領と認めている)。「ロシア軍は侵入した米軍機を撃墜するよう命令されている」とフェルゲンハウエルは言う。「現地の軍司令官は、米軍パイロットが死ななかったのは幸運だと言い放った」

バルト海諸国も、ロシア軍機による領空侵犯や危険行為の急増を報告している。今年6月には、国際水域の上空を飛ぶスウェーデン軍偵察機にスクランブルをかけたロシア機が、わずか2メートルにまで接近している。

米ロ関係は冷戦時代以降で最悪の状況にある。大統領選でのロシアとの癒着を疑われているトランプとしては、もちろんロシアに甘い顔は見せられない。一方でプーチンは、ロシアはアメリカに包囲された被害者だという説をひたすら広めている。

国営テレビは毎日のように、アメリカはウクライナで反ロシアの「ファシスト」を支援している、シリアではISISを支援しているらしいといったニュースを流している。

最近、ロシアのネット上で人気になったビデオでは、軍服を着た子供たちがボルゴグラード(旧スターリングラード)の母なる祖国像の前で、「アメリカの覇権はもう嫌だ......ウラジーミル(・プーチン)おじさん、僕らも戦う準備はできてるよ」と歌っていた。

今やロシア政界の一部にさえ、国家の外交政策と宣伝工作が軍部に乗っ取られることを危惧する声がある。11月には政府系シンクタンク、ロシア科学アカデミー米国カナダ研究所のセルゲイ・ロゴフ所長が、偶発的な戦争を回避するために適切な措置を取るべきだと警告した。「いつ戦争が起きてもおかしくない」からだ。

祖国は戦争状態にあると言い募ることでしか人気を維持できないプーチンのロシアは、ますます危険な存在になる。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マレリ、米連邦破産法11条の適用申請 

ビジネス

午後3時のドルは145円近辺へ小幅高、米中協議後は

ビジネス

ECBと中国人民銀行、協力合意を更新

ビジネス

コメ価格のつり上げや流通阻害の事実「一切ない」=木
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中