最新記事

宇宙サイエンス

小さな飛行士が壮大な宇宙の旅に

2017年12月12日(火)15時40分
メーガン・バーテルズ

太陽系外へのミッションに選ばれた生物はクマムシ(写真)と線虫のC・エレガンス。どちらも脅威的な生命力を誇る Science Picture Co/GETTY IMAGES

<太陽系外に超高速宇宙船を飛ばす「スターライト」計画の乗組員は、体長1ミリに満たないが強靭な微生物だ>

広大な宇宙を旅して他の星々を訪ねるのは、人類にとって大きな夢。だが当分は、順番待ちの列に並んで待たなければならないようだ。

というのも、太陽系外に旅立つ生物の栄えある第1号となるのは、2種類の微生物の予定だから。どちらも体は1ミリに満たないほど小さいが、厳しい宇宙の旅を生き延びられると専門家が考えるほどの強靱な生命力の持ち主だ。

まず1つ目はクマムシ(上写真)。拡大して見るとブタのような愛嬌のある姿をしているが、地上で最も回復力に優れた生物と言われ、それ故に候補に選ばれた。既に地球の周回軌道を回った実績もある。

世界には1000種を超えるクマムシがいる。中には、地球に何が起ころうとも生き延びることができるだろうと科学者が考えるほど強い生命力を持つ種類もいる。

2つ目は線虫の一種「カエノラブディティス・エレガンス」、略してC・エレガンス。これまで半世紀以上にわたり、世界中の科学者が睡眠から老化までさまざまなテーマで研究材料としてきた生き物だ。全部で959個ある細胞全てについて解析が済んでいる。

03年に空中分解して乗員7人が死亡したスペースシャトルのコロンビアにも積み込まれていたが、事故を生き延びたことでも知られる。

クマムシとC・エレガンスを宇宙に送るミッションの計画の名前は「スターライト」。スマートフォンと同じかそれより小さい宇宙船を巨大なレーザービームを使って、超高速で太陽系の外まで飛ばすというものだ。

プロジェクト責任者によれば、理論的には最も小型の宇宙船であれば光速の4分の1のスピードで飛ばすことができ、最も近い恒星(および太陽系外の最も近い惑星)に約20年で到達できるはずだという。

ちなみに、これまでに太陽系外に出た宇宙船は77年に打ち上げられたボイジャー1号ただ1機だ。ただし速度はスターライトで計画されているものよりはるかに遅く、太陽系外の星間空間にたどり着くのに35年近くかかった。

まだ机上の計画段階だが、プロジェクトチームはクマムシや線虫を休眠状態にしてミニ宇宙船に乗り込ませた後に覚醒させ、その後は小まめに観察したいと考えている。例えばクマムシの寿命は通常は数カ月だが、乾燥した環境下に置くと「乾眠状態」となり、何十年も生きられる。長い時間のかかる宇宙の旅にはぴったりというわけだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年12月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中