アングル:イラン戦争で空の便大混乱、「夢の休暇」一転 行き先変更も
写真はチャトラパティ・シバージー国際空港で、ドバイから帰国した子供にキスをする母親。3月3日、インド・ムンバイで撮影。REUTERS/Francis Mascarenhas
Christine Chen James Redmayne Joanna Plucinska
[シドニー/ロンドン 13日 ロイター] - 西オーストラリア州の小さな町ダーダナップに住む会計士のナターシャ・アールさんとその家族は、米国・イスラエル対イラン戦争による経済的な打撃を肌で感じている。
昨年5月にエミレーツ航空で予約した、ロンドンやパリ、ベルリン、ウィーン、ローマを巡る「一生に一度」の5週間にわたる欧州旅行。計画は、この紛争によって根底から覆された。中東での無人機(ドローン)やミサイル攻撃による混乱を避けるためルート変更を余儀なくされ、およそ1万豪ドル(約111万円)もの追加費用がのしかかった。
「この休暇のために何万ドルも支払った」。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以来最大となる世界規模での旅行の混乱のなか、今月末に出発を控えるアールさんはそう嘆き、「最終的には、少なくともその半額はエミレーツ航空から返金されるべきだ」と語った。
ペルシャ湾岸地域は、民間航空路線が交差する世界の中継地点となっているため、イランをめぐる紛争は、たった一つの地域の問題が、いかに急速に世界の航空網を麻痺させ、運賃を高騰させ、座席不足を招き、人々の休暇計画を混乱に陥れるかを浮き彫りにした。
紛争が3週目に入るなか、ドローンやミサイル攻撃の影響で、航空機がドバイ周辺上空で旋回待機を余儀なくされる事態が常態化。年間約3670億ドル(約58兆6000億円)規模の中東の観光産業に、深刻な影を落としている。
航空データ会社シリウムによると、平時であれば、エミレーツ航空、カタール航空、エティハド航空の中東3社だけで、欧州とオーストラリア、ニュージーランド、および近隣の太平洋諸島を行き来する乗客の半数以上を輸送する。
今はミサイルやドローンの脅威により、中東空域の大部分は閉鎖状態にあり、世界中で数万便に上る欠航やルート変更、スケジュールの見直しが発生。何百万人もの人々の旅程が乱れている。
カタールの首都ドーハに住むニュージーランド人のジェイコブ・ブラウンさん(34)は、友人の結婚式で付添人を務めるため母国へ向かう予定だった。しかし、ニュージーランドへのカタール航空便が欠航。急きょ車で隣国サウジアラビアの砂漠を走り抜けて首都リヤドへ向かい、そこからロンドン行きの飛行機に飛び乗った。
当初なら24時間以内で到着するはずの旅程だったが、空域閉鎖や度重なるフライトの混乱、遅延、さらに手荷物の紛失まで重なり、結果的に数日を要する過酷な旅となった。
「その日の朝にも首都の南でミサイルの迎撃が数回あったことを思うと、リヤドから飛び立つのはかなり神経をすり減らす体験だった」とブラウンさんは振り返る。
シドニー郊外のオレンジに住む障害者支援員のアディティヤ・クシュワハさんは、4月13日から29日の日程で、エミレーツ航空でロンドンとパリへのドバイ経由の家族旅行を予約している。だが、予定通りに出発できるか確信が持てずにいる。
「どうすべきか、深いジレンマに陥っている」とクシュワハさん。旅行をキャンセルすれば1万ドル以上の損失が出る可能性があり、再び旅行費用を工面できるのは数年先になるだろうと頭を抱える。
<夢の休暇が悪夢に>
オーストラリア人のケリー・スミスさんにとっても、1年前から計画していた夫と2人の子どもとの3月末の「夢の欧州旅行」は一転して悪夢と化した。およそ5500豪ドルもの想定外の自己負担を強いられたのだ。
「夢の休暇も、支払ったお金もすべて失ってしまうのではないかというストレスで、何度も眠れぬ夜を過ごした」とスミスさんは打ち明ける。
中東を避けてアジアを経由するため、キャセイパシフィック航空とカンタス航空で代替便を確保。現在、エミレーツ航空からの4000豪ドルを超える返金を待っている状態だ。
この武力衝突は、欧州とアジアを結ぶ長距離路線のただでさえ狭まっていた飛行ルートをさらに圧迫し、世界的航空各社の運航スケジュールを複雑化させ、航空券の価格を高騰させている。
紛争が世界中の企業を揺さぶり原油価格を押し上げるなか、航空燃料のコスト高と供給不安も航空会社に重くのしかかる。多くの航空会社が燃油サーチャージ等を引き上げ、ニュージーランド航空など一部では減便に踏み切る動きも出ている。
国際エネルギー機関(IEA)は、今回の事態が「歴史上最大の石油供給の混乱」を引き起こしていると指摘。一部のアナリストからは、航空会社の燃料が数週間で枯渇する恐れがあるとの警告も出ている。ベトナム政府も10日、紛争の影響で早ければ4月にも航空燃料不足に直面する可能性があるとの見方を示した。
<「旅行初心者」は中東を回避>
英国の都市バースに住むジョン・ムーアさん(81)と妻のポーリンさんは、自らを「旅行初心者」と呼ぶ。彼らは「数百ポンド」の追加料金を払い、オーストラリアのブリスベンへのフライトをカタール航空からカンタス航空へと変更。中東を避け、シンガポールを経由するルートを選んだ。
ムーアさんは「追加料金を払ってでも、シンガポール経由で予約し直した方がいいと判断した。絶対に安全という保証はないが、今のルートより安全性が高いのは明らかだ」とロイターの取材に語った。
紛争による旅行への支障を懸念し、リスクを冒してまで旅行する価値はないと判断する人々もいる。
シドニー在住でウエストパック銀行に勤務するスミット・シャルマさんは、家族でエティハド航空を利用してドバイへ行く予定だった。しかし、同航空から全額返金の対象になると確認が取れたため、旅行計画を白紙に戻した。
「行き先を中東から香港へと変えた」とシャルマさん。代わりにキャセイパシフィック航空を予約し、息子をディズニーランドへ連れて行くのを楽しみにしていると付け加えた。
シドニーの保険会社アライアンス・インシュアランスでシニアコンサルタントを務めるショバナ・ゴパルさんも、ドバイ経由でオーストリアへ向かう計画を取りやめ、家族旅行の行き先を中国へと変更した。
「中国の3都市を巡る予定だ」とゴパルさんは語る。
カンタス航空によると、提携ネットワークを活用し、米国やその他のアジア都市、あるいは南アフリカのヨハネスブルクを経由して欧州へ向かう迂回ルートを選択する乗客が増加しているという。
香港のキャセイパシフィック航空も11日、「中東情勢の影響で、需要動向に急激な変化が見られる」と表明。格安航空会社(LCC)のライアンエアーは、旅行者が中東を敬遠するなか、欧州圏内を目的地とする予約が急増している実態を強調した。
ドイツのルフトハンザ航空は、欧州を経由する代替ルートの需要が急増していると指摘。同社のアジアへの直行便の今後12カ月間の予約数は、前年比で75%も増加しているという。
航空業界の専門家、ハンス・ヨルゲン・エルネス氏は、「エミレーツ航空やエティハド航空といった中東の大手航空会社は、本来飛ぶべきルートを飛べない状況にある。その結果、行き場を失った乗客の波を、欧州やアジアの航空会社が引き受けざるを得なくなっている」と分析した。
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