最新記事

米企業

米AT&T、トランプ減税で「従業員全員に1000ドル」のなぜ?

2017年12月21日(木)20時00分
サマー・メザ

メディア大手タイムワーナーを買収してますます大きくなろうとしているAT&T Stephanie Keith-REUTERS

<減税はアメリカ経済を再び繁栄に導く歴史的偉業だと、米通信大手が大喜びする本当の理由は?>

米通信大手AT&Tは、12月20日に米議会を通過した法人税率の大幅引き下げなどを柱とする米税制改革法案について、経済成長を促す「歴史的な一歩」だとした。ドナルド・トランプ米大統領が署名して成立したら、20万人以上の従業員一人一人に1000ドルの特別ボーナスを支給すると発表した。2018年の米国内での投資も10億ドル上乗せするという。

そればかりではない。同日のうちに、もう一つの通信大手コムキャストが従業員が1000ドルのクリスマスプレゼントを約束し、ウェルズファーゴなど2つの銀行が賃上げを発表した。企業が突然大盤振る舞いをする理由は何なのか。

AT&Tのランドール・スティーブンソン最高経営責任者(CEO)は、今回の税制改革は歴史的な偉業で、アメリカ企業は国内回帰し、雇用や賃金のプラスになるという。「税制改革実現に取り組んできたトランプ大統領と米議会は、米企業が外国で払ってきた税金をアメリカに呼び戻すための歴史的な一歩を踏み出した」「税制改革は経済成長を促し、高賃金の雇用を創出する」と、アメリカン・ドリームが復活したとでも言わんばかりの喜びようだ。

だがAT&Tの発表は、今年11月に米司法省に独禁法に触れるとして阻止された米メディア大手タイムワーナーの買収を認めてもらうためのアピールだ、とする見方もある。米司法省は買収認可の条件として、タイムワーナー傘下の米CNNの売却を要求したと報じられている。トランプは自分に批判的な報道を続けるCNNを「偽ニュース」と攻撃しており、売却要求はトランプの意向だったとの見方もある。

逆に、さっそく税制改革の効果が出たと積極的に評価する見方もある。米下院共和党のスティーブ・スカリス下院院内幹事(ルイジアナ州選出)は、法人税率の大幅引き下げを盛り込んだ税制改革では、AT&Tのような米企業による賃上げ効果を期待できる、と言った。

自社株買いや配当引き上げも

共和党が提案し、トランプが米国民へのクリスマスプレゼントと称する税制改革法案は、実際はトランプが選挙公約に掲げたほど低中所得層に恩恵がなく、むしろ富裕層や大企業を大幅に優遇する内容だ。米シンクタンク、タックス・ポリシー・センターによれば、所得税の一部税率の引き下げは2025年までの時限措置になるため、中間層の負担軽減も限定的だ。AT&Tが労働組合に加入する非管理職社員に支給するという特別ボーナスも、同社の減税分の総額に比べれば微々たるもの。

AT&Tの広報担当者は、一般消費者が受ける恩恵についてインターネットの高速化を挙げた。「法人税率の引き下げで、光ファイバー網や5GBの高速通信への設備投資額を増やし続けられるだろう」

だが減税分の使い道について、一部企業はすでに株式の買戻しや配当の増額に充てる意向を示しており、今回の税制改革では金持ちの投資家がより大きな恩恵を受けるという見方が有力だ。AT&Tが喜んでいるのも、決してアメリカ全体のためではなく自分のためだと思っておいたほうがいい無難だろう。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不法移民取り締まり、ニューオーリンズでも開始 国土

ワールド

ウクライナ協議、次の展開不透明とトランプ氏 米ロ会

ワールド

イスラエルに人質1人の遺体返還、残り1人か ラファ

ビジネス

米の同盟国支援縮小、ドルの地位を脅かす可能性=マン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中