最新記事

スペイン

カタルーニャ「殉教戦略」の嘘

2017年11月14日(火)14時45分
オマール・エンカルナシオン(米バード大学政治学教授)

州首相を解任されたプッチダモン(中央)はスペインを出国し、ブリュッセルで会見を行った Yves Herman-REUTERS

<中央政府による抑圧を強調することで国際社会の同情を誘う独立派の狙いは成功しそうにない>

カルラス・プッチダモンが打って出たのは、いわば政治的な「殉教戦略」だ。

スペイン北東部のカタルーニャ自治州首相だった彼は10月末に州議会に対し、カタルーニャの独立を宣言する決議案を採択するよう求めた。これに対して中央政府はプッチダモンを解任し、カタルーニャの自治権の一部を停止した。

プッチダモンは、州議会が決議案を採択すれば、中央政府が憲法155条に基づいて、カタルーニャの警察や司法の権限を停止することが分かっていたはずだ。155条が発動されれば、中央政府はプッチダモンと州の閣僚らを訴追することもできる。有罪になれば、プッチダモンは反逆罪で最長30年の禁錮刑に処せられかねない。

だがプッチダモンの強情な「殉教」に、果たして効果はあるのだろうか。その点を疑う理由は数多くある。テロ組織ISIS(自称イスラム国)の自爆テロ犯が実践しているように、殉教とは自らの信念のために究極の犠牲を払う行為だ。政治戦略としての殉教は、そこまでの犠牲は払うことはない。

特にカタルーニャ独立のような無謀にも思えるケースでは、大義の名の下に人々の苦しみや犠牲を増幅させることが主な目的となる。しかしプッチダモンの戦略は、信念に基づく行動というよりは、ひたすら贖罪を祈っているようにしか見えない。

プッチダモンがこの「殉教戦略」で狙っているのは、カタルーニャ独立派の強い独立願望を維持することのようだ。10月1日の住民投票(投票した人の90%が独立を支持したが、投票率は約40%にとどまった)は、スペインとの決別を確実にできなかっただけでなく、裏目に出た可能性さえある。

中央政府の弾圧を期待?

この1カ月でカタルーニャでは、スペインへの愛国心が驚くほど復活している。10月8日には、バルセロナで数十万人が独立反対の抗議デモを展開。独立宣言の翌日にも、「勝利」を祝う独立派をはるかに超える数十万人の人々が、独立に反対するデモを行った。

プッチダモンの殉教戦略の目標には、短期的なものと長期的なものがある。

短期的な目標は、カタルーニャ住民の苦しみを増幅させ、さらにはスペイン政府の権威主義的な本質を見せることで、諸外国がカタルーニャの独立を支持するように仕向けるというもの。そして長期的目標は、カタルーニャの将来の世代を苦しみにさらして、分離独立を求める闘争に順応させることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、凍結資産巡りEU批判 「主要産油国の外

ビジネス

金利を変更する理由ない、政策は当面安定推移=スペイ

ワールド

仏上下両院合同委、予算妥協案で合意できず 緊急立法

ワールド

プーチン氏、「ウクライナ和平条件変わらず」 年末会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中