最新記事

日本経済

安倍政権の働き方改革、残業抑制で4-5兆円の所得減 一時手当は効果に限界

2017年11月29日(水)18時37分

11月29日、政府が重要政策として実行中の「働き方改革」によって、企業が雇用者に支払う残業代が年間4─5兆円減少すると政府が見積もっていることがわかった。複数の政府筋が明らかにした。写真は9月に都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)

政府が重要政策として実行中の「働き方改革」によって、企業が雇用者に支払う残業代が年間4─5兆円減少すると政府が見積もっていることがわかった。複数の政府筋が明らかにした。このままでは、残業代を生活費に組み込んでいる子育て世代などの消費に大きな影響が出かねないため、政府は経済界に対し、一時的な手当ても含めたベースで3%の賃上げを要請し、減少する所得の還元を目指す。

ただ、労組側やマクロ経済の専門家らは、賃上げを手当て主体で実行すれば、雇用者が所得増が一時的にとどまる可能性を意識し、消費浮揚にはつながらないと指摘。賃上げは雇用者の消費性向拡大に効きやすい月例賃金の増加を軸に対応するべきだと主張している。

残業規制の副作用、数兆円規模

政府筋の1人は、ロイターの取材に対し「残業代カットの影響は、短期的におおむね5兆円程度とみている。企業は若い世代に対し、手当てでよいから還元してもらいたい」と述べた。

政府自身が推し進めている長時間労働の是正により、当初から懸念されていた残業代の削減という副作用の大きさについて、政府内で試算した規模を初めて示した。

5兆円は年間雇用者報酬の2%を占め、減少を放置すれば消費減退につながりかねない。

大和総研は今年夏、残業が年間720時間に規制されれば、雇用者全体で8.5兆円の減収との機械的試算を公表。今月に入り、短期的には年間4兆円程度の残業代減少になるとの試算も示した。

残業規制をオーバーしている社員に代わり、残業の少ない別の社員が業務を担当するケースが考えられ、マクロ的に所得減少幅が縮小するとの試算結果だ。

別の政府筋は「8.5兆円は過大だが、数兆円規模の所得が数年にわたり減少するとみている」との見通しを示す。すでに残業時間の削減は大手企業を中心に始まっており、安倍首相が産業界に呼びかけている3%の賃上げ目標は、残業規制による所得減に対応するためにも必要だと述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中