最新記事

日本経済

安倍政権の働き方改革、残業抑制で4-5兆円の所得減 一時手当は効果に限界

2017年11月29日(水)18時37分


手当てやボーナス含めば3%賃上げも可能と楽観視

特に30─40代の子育て世代では、2割弱が残業代を生活費の一部に組み込んでいるとの調査結果があり、 政府としては、固定費拡大につながらない「手当て」での支給を容認する方針。

また、月額賃金1万円増といった定額での賃上げを選択すれば、給与の低い若手ほど増額率が厚くなるため望ましいとの意見もある。

アベノミクス開始以降、定期昇給とベースアップを加えた賃上げ率は2%前後で推移しているが、政府内では、そこに手当てや定額での上乗せ分を加えれば「3%の賃上げ実現も、そう非現実的とも言えない」(先の政府筋)という楽観論も出ている。

これに対し経済界でも、政府の要請を深刻に受け止めている。経団連の榊原定征会長は時間外手当の大幅減少分を原資とした従業員への還元が必要だとして「消費性向の高い子育て世帯への重点配分ということも、労使で知恵を出して考えていくべき」(10月26日の経済諮問会議での発言)と述べている。

経団連は、政府の要請を踏まえ、春闘での対応方針を検討中だ。12月4日の正副会長会議で労使交渉の指針案を示し、来年1月に春闘の指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を決定する。

一時的手当てでの還元に違和感

ただ、労組側やマクロ経済の専門家からは、政府や経済界が「手当て」などでの補てんを議論の対象としていることに疑問の声が挙がっている。

連合総合労働局の冨田珠代局長は「残業規制に伴う働き方の工夫は、労使の知恵の出し合いによるもの。(労働時間の短縮が可能になったということは)生産性が向上したということであり、月例賃金引上げで還元すべきだ」と主張。手当てではなく月例賃金の引き上げで対応すべきと主張する。

日本総研理事の山田久氏の分析では、所得の増加分を消費に回す割合でみても、所定内給与なら9割に対し、一時的なボーナスなどでは4割程度にしかならない。連合では、これを踏まえて「一時的な手当てでは将来不安が消えない。持続的な賃上げで対応する方が経済の好循環につながりやすい」(冨田氏)との見方を示している。

その山田氏は「3%の賃上げを目指すなら、名目成長率がそれ以上でなければ企業は動かない。月例賃金アップを継続するためには将来の展望が必要だが、成長産業に人材を振り向ける雇用流動化や、国内市場縮小を食い止める人口減対策への本腰を入れた取り組みは遅れている」と指摘。「春闘賃上げや残業減など、安倍政権の政策は部分的には正しいが、全体像が見える形になっていない」と見ている。

目先の対策ばかりで、本来取り組むべき根本的な課題が残されたままでは、いずれ効果にも限界がくると警鐘を鳴らしている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

[東京/ワシントン 29日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初

ワールド

韓国電池材料L&F、テスラとの契約額大幅引き下げ 

ワールド

ビングループのEVタクシー部門が海外上場計画、企業

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中