最新記事

神経生物学

「女性は男性よりも思いやりがある」は、ホント?ウソ? 神経生物学の研究

2017年10月13日(金)19時45分
松岡由希子

FredFroese-iStock

<スイス・チューリッヒ大学の研究プロジェクトは、神経生物学の観点から「女性は男性よりも思いやりがある」ことを検証した>

"女性は、男性よりも思いやりがある"──スイス・チューリッヒ大学の研究プロジェクトは、利他的行動と利己的行動における男女の脳の働きの違いに着目し、神経生物学の観点からこの説を裏付ける研究論文をオンラインジャーナル「Nature Human Behavior」で発表した。

これによると、女性は、男性よりも、利他的行動に対して、脳内の報酬系(欲求が満たされるとわかると活性化して快の感覚を与える神経系)がより強く働くことが明らかになったという。

ドーパミンの作用を人為的に制御して検証

この研究プロジェクトでは、ヒトの意思決定をつかさどる脳内の線条体において、報酬系の働きに重要な役割を果たす神経伝達物質ドーパミンの作用を人為的に制御し、利他的行動と利己的行動の選択にどのような影響を及ぼすかを検証した。

具体的には、女性27名と男性28名を対象に、ドーパミンの作用を阻害するアミスルプリドと、この薬に似せた偽薬を摂取させ、それぞれの場合において、プロジェクトが用意したお金を独占するか、他者に分け与えるかのいずれかを選択させた。

その結果、偽薬を摂取させ、ドーパミンを通常と同様に作用させた場合、お金を他者に分け与えることを選択した割合は、女性が51%であったのに対し、男性は40%にとどまった。

一方、アミスルプリドによってドーパミンの作用を阻害した場合、お金を他者に分け与えることを選んだ割合は、女性が45%、男性は44%とほぼ同等で、むしろ、男性は、ドーパミンの作用を阻害すると、わずかながら利他的な行動を選びやすい傾向にあることが示された。

文化的・社会的な期待の違いに起因する

この研究結果が示した男女の脳の働きの違いが、先天的なものなのか、どのような要因によるものなのかは、明らかになっていない。

とりわけ、報酬系の働きは、ヒトの学習と密接につながっているとみられている。たとえば、女の子が、利他的な行動を褒められると、利己的に振る舞うよりも他者を助けることによって褒められることを期待するようになり、このような学習プロセスによって、女性は、利他的行動に対して報酬系がより強く働くようになっているとも考えられるわけだ。

この研究論文の筆頭著者であるAlexander Soutschekは「この実験結果で示された男女の違いは、男性と女性が置かれている文化的・社会的な期待の違いに起因するものと考えられる」と考察している。

この研究プロジェクトのように、社会的な行動や意思決定の背景をヒトの神経系の構造や働きなどから研究しようとする試みは、ヒトの遺伝子と文化的・社会的な期待などとの相互作用を解明するうえでも役立ちそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中