最新記事

日本外交

ロヒンギャ弾圧に不感症な日本外交

2017年9月28日(木)15時30分
前川祐補(本誌編集部)

戦後メンタリティーの影響

なぜ、日本はそこまでミャンマー政府の肩を持つのか? 土井は「(日本にとってミャンマーは)ODA(政府開発援助)との関係もあるし、地政学的に中国の隣ということもあり重要な国。ひとことで言えば、軍を主とするミャンマー政府を怒らせたくないということだろう」と指摘する。そのため「通常は欧州(の動き)に呼応する日本だが、ミャンマーの人権関連ではダブルスタンダードも多い」。

確かに近年の中国の拡張政策を考えれば、日本に「味方」を失いたくない事情はある。一方で、人権問題を表立って批判しないのは日本人の戦後メンタリティーに由来するとの声もある。

元外交官で岡本アソシエイツの岡本行夫代表は、戦後の十字架を背負っていることと無関係ではないと指摘する。「人権問題について何か言うと、『そんなこと言えた義理か』という反発を気にして、しゃべらないほうがいいというメンタリティーになっている」。日本さえ悪事を働かなければ世界の常識と公平さの上に万事うまくいく――。岡本はこうした戦後教育による影響から、「日本は悪い人を悪いと呼ぶことの挙証責任を避けたがる傾向にある」と言う。

9月1日、東京・渋谷で在日ロヒンギャによるミャンマー政府への抗議デモが行われた。群馬・館林から来たという中学2年のロヒンギャ難民の男子生徒に、いま最もつらいことは何かと問うと、こう答えた。「僕たちが平和な日本で不自由のない暮らしをしているのに、親族が祖国で泥沼の湿地帯を歩いて逃げ回っていること」。外務省はこれをどう受け止めるのか。

「人間の安全保障」を前面に掲げる日本外交。だが今のままでは、ロヒンギャ弾圧というミャンマーの黒歴史に「関与」したという不名誉な過去を刻みかねない。

<本誌2017年9月26日発売最新号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え

ワールド

ウクライナ外相「宥和でなく真の平和を」、ミュンヘン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中