最新記事

ミャンマー

ロヒンギャ武装勢力、活発化で穏健派殺害も ミャンマー人道問題の闇

2017年9月14日(木)10時00分


「人間らしい生活ではない」

ARSAの指導者アタ・ウラー氏は3月、同グループの誕生は、2012年のラカイン州で起きた仏教徒・ムスリムのコミュニティー同士の暴力的衝突と関係している、とロイターに語った。この衝突で200人近くが殺され、ロヒンギャを中心とする14万人が住居を失った。

「夜間に明かりをつけることもできない。日中に別の場所に移動することも無理だ」。これまで未公開だった発言のなかで、ウラー氏はロヒンギャ住民の行動や移動に、そうした制約が課せられていることをロイターに明かした。

「すべての出口や入口、至るところに検問所がある。これは人間らしい生活ではない」と語った。

数十年にわたる軍政が終わり、スー・チー氏のもとで新たな自由を享受しているミャンマーだが、ムスリムの少数民族ははますます無用のものとして扱われている、とラカイン州北部にいるロヒンギャ社会のコミュニティーリーダーは指摘する。昨年の軍による掃討作戦以降、反体制勢力への支持は増しているという。

「治安部隊がわれわれの村に来たとき、村民は皆、彼らに謝罪し、家を焼かないでくれと懇願した。だが治安部隊は、その要請をした村民たちを撃った」と彼は言う。

「慈悲を乞うたにもかかわらず、目の前で息子たちを殺され、娘や姉妹を強姦されたことで、人々は苦しんでいる。そのことを絶えず思い出さずにはいられない。死のうが生きようが、戦いたいと願っている」

ロイターは村民たちの主張を、独自に確認できなかった。

元軍情報部トップのミン・スエ副大統領が8月取りまとめた政府調査では、軍による昨年の掃討作戦中に人道犯罪や民族浄化があったとの告発を退けている。

下部組織のネットワーク

ARSAは昨年10月以来、ラカイン州の数十の村に下部組織を創設しており、これを拠点に現地の活動家がさらに参加者を募っている、と村民や警察官は指摘する。

「コミュニティーのなかで、人々は思いを共有し、言葉を交わし、他地域の友人や知人にもそれを伝えている。こうして、ARSAは爆発的に拡大した」とロヒンギャ社会のコミュニティーリーダーは語る。

州北部ブティダウンにあるKyee Knoke Thee村の長老Rohi Mullarah氏によれば、ARSA指導者は「WhatApp」や「WeChat」といったアプリを使って定期的かつ頻繁に支持者に対してメッセージを送っている。

自由と人権のために戦うよう彼らを励まし、政府軍の多い地域に入って逮捕されるリスクを負わずに、多くの人々を動員できるようにしているという。

「彼らは主に、村民に携帯メッセージを送っており、人々をどこかに連れ回したりはしない」とこの長老は言う。彼自身の村は反乱には加わらず、村の入口には、武装勢力が村民の参加を募ろうとすれば村民から攻撃される、という趣旨の警告が掲示されている。

ロヒンギャの長老の多くは数十年にわたって暴力を否定し、政府との対話を求めてきた。ARSAは、不満を抱いている若い男性を中心に若干の影響力を持つようになっているとはいえ、こうした長老の多くは同グループの暴力的な戦術を批判している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中