最新記事

ペット

犬種と性格をめぐるステレオタイプが犬の命を脅かす

2017年9月13日(水)17時40分
クライブ・ウィン(アリゾナ州立大学教授)、リサ・ガンター(同博士課程在籍)

犬種による性格の決め付けは完全に間違っていることもある David Leahy/Compassionate Eye Foundation-Digitalvision/GETTY IMAGES

<「ピットブルは凶暴」といった思い込みに惑わされて里親が見つからない悲劇が多発している>

ボリスとブレンダンは双子といってもおかしくない。どちらも背は低いほうで、毛は茶色、幅の広い顔に小さな目が輝いている。どちらも犬舎に誰か近づいてくると興奮した様子で尻尾を振り、その人が立ち去れば悲しそうにほえ立てる。

そして、どちらもフロリダ州のドッグシェルター(保護施設)で里親を探していた。だが、2匹の運命は大きく分かれた。ボリスは1週間で里親が見つかったが、ブレンダンは2カ月かかった。その直前にシェルター側が「殺さない」方針を採用していなければ、ブレンダンは殺処分されていたはずだ(アメリカでは毎年100万匹近い犬が殺処分されている)。

何が2匹の運命を分けたのか。全ては犬種というレッテルのせいだ。ボリスは「ラブラドールとジャーマン・ショートヘア・ポインターのミックス」、ブレンダンは「ピットブル」と表示されていた。

犬種による性格の違いは、自動車の車種や型番のように確実なものに思われがちだ。しかし最新の研究によれば、この犬種の犬はこんな性格に違いないというステレオタイプは誤解を招きやすかったり、完全に間違っていたりする。

そもそも、ピットブルは正式な犬種ですらない。小型でがっしりした体格で幅広顔の犬を一くくりにした通称だ。1980年代に都市部で番犬として飼われ、凶暴なイメージが定着した。

だが2000~09年にアメリカで犬が人を襲い死亡させたケースを分析した結果、凶暴な性格の背景には犬種以外の多くの要因があることが分かった。犬種は正確に報告されないことも多い一方、性別、避妊手術の有無、虐待・ネグレクト(飼育放棄)の形跡などのほうが性格形成に重要な役割を果たしていた。

それに人間と同じく、犬の性格にも遺伝と環境が複雑に絡んでいる。民族的背景だけで人を判断すべきでないのと同じように、犬種のイメージに惑わされるべきではない。だが現実には、アメリカの多くのシェルターでピットブルがあふれ返っている。ピットブルと思われる犬を里親探しにすら出さない施設もあるほどだ。

【参考記事】「もふもふ」OK! 米空港で旅行者を癒すセラピー犬増加中

信用できない「犬種」表示

里親候補から「どんな犬?」と尋ねられると、施設側は犬種を答えがちだ。しかし収容されている犬の大部分は、血統書があるわけでも遺伝子検査を受けたわけでもない。表示されている犬種はあくまでも外見から判断したものにすぎない。

公認の犬種だけでも300を超え、55兆に達する掛け合わせの可能性があるのだから、外見から推測した犬種がたいてい間違っているのも無理はない。シェルターにいる犬は、私たちが想像もつかないほど複雑な「混血」なのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中