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ミャンマー

ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編)

2017年9月21日(木)12時00分
前川祐補(本誌編集部)

一方、日本で支援団体ロヒンギャ・アドボカシー・ネットワークを立ち上げたゾーミントゥットは、EU駐日代表部や日本政府への働き掛けを続けている。「外務省への陳情などで東京に行っている間は仕事ができない。売り上げで何万円も損することもある」と、ゾーミントゥットは苦労を語る。それでも、ロヒンギャの惨状を訴える活動をやめることはできない。日本では、国会議員ですらロヒンギャの存在を知らない人が大多数だからだ。

12年、ミャンマーで大規模なロヒンギャ迫害が起こり、多数が虐殺された。その際、祖国に残るゾーミントゥットの父も当局に拘束され、殴る蹴るの暴行を受けた。父は賄賂を払って釈放され、一命を取り留めた。その夜、母から電話があった。

「お前がそうした活動をしているから残された家族がひどい目に遭う。頼むから、もうやめてくれ」。そう話す母から父親が受話器を奪い、ゾーミントゥットを鼓舞した。「絶対に活動をやめるな。俺は死んでも構わない」と。

「数少ない大学進学者のおまえが活動をやめたら、誰がロヒンギャ問題を世界に知らせるのか」。だからやめるわけにはいかない、とゾーミントゥットはスクラップの置かれた敷地を見つめながら話す。

その思いも虚しく、祖国ではロヒンギャ浄化の総仕上げが始まろうとしている。「ミャンマー政府は全土からロヒンギャを追放しようとしている」。今年3月、国連人権理事会でミャンマーの人権問題を担当する李亮喜(イ・ヤンヒ)は、ロヒンギャ迫害を続けるミャンマー政府に警告を発した。EUもこれに呼応し、事実解明のための独立調査を行う決議案を国連人権理事会に提出した。

ミャンマー政府はまだ沈黙を保っている。その裏で、民族浄化は今も続いている。

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