最新記事

イスラム過激派

「神の党」を名乗るヒズボラの明と暗

2017年8月2日(水)10時20分
シュローム・アンダーソン

ベイルートの集会でナスララに忠誠を誓うヒズボラの支持者(17年6月) Aziz Taher-REUTERS

<シリア内戦に関与して力を付けたヒズボラだが、イスラエルとの全面戦争は自殺行為になりかねない>

大柄な男が、重そうなマシンガンを構えて立つ。傍らにはミサイルの発射台。暖かい5月の朝で、一羽のチョウが男の顔をなでるように舞っていた。

場所はシリアの首都ダマスカスの南方。「神の思し召しで、われらは近くシリアを解放し、祖国へ戻る。だがその日が来るまでは、死んでもこの地を守り抜く」。ヒズボラの戦闘員ラビエ(仮名)はそう言った。

ヒズボラは「神の党」の意。レバノンを拠点とするシーア派の武装組織で、シーア派の盟主イランの意向を受け、シーア派の分派に属するバシャル・アサド大統領の率いるシリア政府を支援して、5年前からシリア反政府勢力やスンニ派系の過激派と戦ってきた。もちろん犠牲は大きかったが、彼らが得たものも大きい。得難い実戦経験を積めたし、イランやシリア政府、そしてロシアから、大量かつ強力な武器を提供された。

だが、それも長くは持たないだろう。天敵イスラエルとの緊張が高まっているからだ。そのためヒズボラは、シリアにいる精鋭部隊をレバノン南部のイスラエル国境付近に呼び戻しているという。

一方でシリア領内にあるヒズボラの拠点に対しては、米軍が何度も空爆を行っている。そのためヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララはアメリカへの報復を示唆している。しかしイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦では、ヒズボラもシーア派民兵組織と共に戦い、間接的ながら米軍の支援を受けている。

【参考記事】「ジハードって楽しそうだ」ISIS崩壊後、洗脳された子供たちは...

なかなか複雑な関係だが、仮にイスラエルとの本格的な戦闘が始まった場合、ヒズボラはシリアとイラク、レバノン南部の3方面で同時に戦うことになり、全てを失う恐れがある。ベイルート・アメリカン大学のヒラル・ハッシャン教授が言うとおり、「イスラエルが全面戦争に踏み切れば、ヒズボラが勝てる見込みはない」からだ。

それでもレバノンの首都ベイルート郊外のダヒエに陣取る地区司令官とその副官は強気だ。「シリアに行って、われわれはずっと強くなった」と司令官は言う。「以前のヒズボラは基本的に守りの部隊だった。しかし今は攻めの戦術も学んだ」

「今のヒズボラには、以前なら考えられなかったほどの武器がある」と、副官が付け加えた。「シリアが平和だったら、こんな武器を、それも安値で手に入れることは不可能だった」

06年の対イスラエル戦争でも、ヒズボラは頑強に抵抗した。侵攻したイスラエルの地上軍にはロシア製の対戦車ミサイルで反撃し、最終的に停戦合意を受け入れさせた。

あの頃に比べてもなお、ヒズボラは格段に強くなった。昨年段階でヒズボラの正規軍は2万人、予備役は2万5千人を数える。中規模国の軍隊並みだ。またイスラエルの推定では、ヒズボラが保有するロケット弾は約12万発。EUのたいていの国よりも多い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中