最新記事

「イスラム国」の子供たち

「ジハードって楽しそうだ」ISIS崩壊後、洗脳された子供たちは...

2017年7月25日(火)16時25分
エミリー・フェルドマン(ジャーナリスト)

ヤジディ教徒の少年(右)はISISに拉致され洗脳された(クルド人自治区近郊の難民キャンプで) AHMED JADALLAH-REUTERS


nwjcover170801_150.jpg<ニューズウィーク日本版7月25日発売号(2017年8月1日号)は「『イスラム国』の子供たち」特集。ISISに洗脳され、憎悪と殺人術を刻み込まれた少年テロリストたちの実態に迫った。本記事は、特集の1記事「ISISチルドレンが攻めてくる」を一部抜粋・転載したもの>

放課後にはよく映画を見に行った、楽しかったよ。青い目をした少年は無邪気に言う。それは3年前、当時9歳の彼がまだシリア北部の都市ラッカの外れに暮らしていた頃のこと。父に連れられて行くこともあったし、学校の先生やクラスメイトと一緒のこともあった。

野外の会場には日よけの傘の下に大画面のテレビが据えてあり、みんな粗末な椅子に腰掛け、クッキーをつまみながら上映開始を待った。いろんなビデオがあったけれど、筋立てはいつも同じ。黒ずくめのISIS(自称イスラム国)戦闘員がクファール(不信心者)の支配する町を「解放」し、勝利を祝う血みどろの儀式として不信心者の首を切り落とす。演技ではない、映像の全ては実際に起きたこと。「ジハード(聖戦)って楽しそうだ」。そう思ったと、少年は言う。

少年の名はモハメド(12)。今は叔父に引き取られ、シリア国境に近いトルコ南部の町レイハンルで暮らしている。筆者は今年5月に叔父の家で彼に会ったのだが、まず驚いたのは、彼が斬首の映像を平気で見ていたという事実。「だって不信心者だもの、殺していいんだ」と少年は言い、そういう映像を見たり、町でISIS戦闘員の姿を見掛けたりすると「すごく興奮した」ものだとも語った。

叔父のラエドは、少年と2人の兄弟──イブラヒム(10)とサリム(16)──がISISの思想に染まることを恐れていた。昨年、父親を説き伏せて、一家をラッカ(シリアのISIS拠点)からトルコへ引っ越させた。今は2つの家族が同じ家に暮らしている。

兄弟3人はシリア難民のための学校に通っている。一日でも早く聖戦思想を捨ててほしいと思うから、ラエドは甥たちにⅰPadを買い与え、自身が経営する古着屋で働かせ、「よきイスラム教徒=聖戦士」という思い込みを変えさせようと試みている。だが引っ越しから9カ月たった時点でも、甥たちはISISに心酔していた。「人の頭はコンピューターじゃない。一度ダウンロードした情報は、そう簡単に消せない」とラエドは言う。

実際、ISISは支配地域の子供たちの洗脳に力を入れていた。全盛期のISISはシリアとイラクの領土の約3分の1を制圧し、最大で約1200万人の住民を支配下に置いていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中