最新記事

北朝鮮

中国:北朝鮮ミサイル抑制は中朝軍事同盟の脅威

2017年8月27日(日)14時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。

これまで、中国がカードを切って禁止したことによって、北朝鮮が抑制的になった行動が二つある。

1. 4月下旬に北朝鮮が核実験をすると中国に通告したことに関して、中国は「もし核実験をすれば中朝国境線を陸路、海路および空路の全てにわたって封鎖する」と威嚇した。つまり中国は「中朝国境線封鎖」というカードを切った。これにより、朝鮮人民軍建軍85周年に当たる4月25日前後に実施されるだろうとみなされていた核実験を、北朝鮮は実施していない。

2. 上述(1)の「中朝軍事同盟」カードを切ったことにより、北朝鮮はグアムなど、アメリカ領土領海に着弾する可能性のある弾道ミサイル発射を控えている。

北朝鮮は中国の威嚇に抵触しない範囲内で動いている

逆から言えば、北朝鮮は中国が威嚇した内容に抵触しない範囲内で動いているということが言える。

8月26日のミサイル(らしきものの)発射は、上記(1)の条件を北朝鮮が守っていることを示している。中国がカードを切って威嚇禁止してきた内容以外の行動を、小出しで行なっていることになる。

何度も書いてきたが、8月10日の環球時報の社説は、あくまでも中国が唱えてきた「双暫停」(北朝鮮は核・ミサイルの挑発を暫定的に停止し、米韓は合同軍事演習を暫定的に停止する)の大前提の上で発した警告である。

その意味で、中国としては「北朝鮮はグアムなどアメリカ領土へのミサイル発射を抑制したのに、アメリカは米韓合同軍事演習を抑制していない」という米韓に対する不満がある。「習近平、苦々しい思い:米韓合同軍事演習」に書いたように、日米「2+2」外交防衛会議で日米韓の軍事演習強化を確認し、「米韓合同軍事演習は例年通り行う」とアメリカが宣言しているので、米韓に対してだけでなく、日本への不満も大きい。

その分だけ、中国の中央テレビ局CCTVや政府系メディアは、「これでは北朝鮮を刺激してしまうではないか」というトーンに傾いていた。北朝鮮の金正恩委員長が米韓合同軍事演習に抗議する意味で何らかのリアクションを起こすであろうことを、何度も示唆していた。そうでなければ北朝鮮の国民に対して示しがつかないことになるのを解説委員らは懸念していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中