最新記事

映画

極上ホラー『ウィッチ』は「アメリカの原罪」を問う

2017年7月28日(金)10時00分
デービッド・アーリック

長女のトマシンに疑いが向けられる ©2015 WITCH MOVIE,LLC.ALL RIGHT RESERVED.

<監督ロバート・エガースの長編デビュー作『ウィッチ』は、17世紀のアメリカを舞台に「魔女」と家族の崩壊を描き出すダークな傑作>

15年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞したロバート・エガースの『ウィッチ』は、残酷な優美さと信念に裏打ちされた稀有なホラー映画だ。エガースはこの妥協を排した長編デビュー作で「アメリカの原罪」を生み出した原初的熱狂をよみがえらせ、思わず身が引き締まる新鮮な体験を観客に届ける。

1630年の寒い冬の日、ある敬虔なピューリタン(清教徒)の家族がニューイングランドの入植地から追放される。いさかいの詳細な事情は明かされないが、宗教をめぐる対立があったようだ。

「私は真の神の福音を説いただけだ。偽のキリスト教徒たちの審判を受けるわけにはいかない」。追放された一家の家長ウィリアム(ラルフ・アイネソン)は、村人たちにそう告げる。観客に息をつく暇も与えない映画の始まりから90秒後、ウィリアムは妻キャサリン(ケイト・ディッキー)と5人の子供を連れて村を離れ、荒野に向かう。

後から考えれば、ウィリアムはあの森の外れに家族を移住させるべきではなかった。その後すぐに事件が一家を襲う。

10代の長女トマシン(アニヤ・テイラージョイ)が生まれたばかりの弟を「いないいないばあ」であやしていると、隠した顔から両手を離した瞬間、赤ん坊は姿を消す。トマシンと両親は狼の仕業に違いないと自分たちに言い聞かせるが......。

エガースは不運な赤ん坊の運命について一切の謎を残さない。その後、顔に深いしわの刻まれた老婆が、赤ん坊の体をすりつぶしてどろどろの「血のローション」に変え、しなびた体全体に塗りたくる姿が映る。まるでゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』を反対の角度から映したような場面だ。

【参考記事】生まれ変わった異端のダンサー、ポルーニンの「苦悶する肉体」

少女の体は「邪悪の源泉」

美術監督出身のエガースは細部の細部にまで徹底的にこだわり、限られた予算で完璧な一貫性を持つ1つの世界をつくり上げた。草ぶきの屋根からウィリアム一家が文明世界の村を出ていくシーンに映り込むアメリカ先住民の姿まで、全てが17世紀の一断面をリアルに感じさせる効果を発揮している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中