最新記事

中国社会

劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国

2017年7月16日(日)07時20分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌アジアエディター)

体制に反抗しても太刀打ちできないなら、そういう世の中だと割り切ったほうが気楽なのか ZHANG PENG-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES


nwj0725cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版7月25日号は「劉暁波死去 中国民主化の墓標」特集(2017年7月19日発売)。重病のノーベル平和賞受賞者を死に追いやった共産党。劉暁波の死は中国民主化の終わりか、それとも――。この緊急特集から、中国社会の冷めた民衆心理に関する記事を転載する>

中国の民主活動家で作家の劉暁波(リウ・シアオポー)は、天安門事件の首謀者として投獄されたこともある。09年に懲役11年の判決を受けたときの「罪状」は、政治改革を要求する「08憲章」の中心的な起草者だったこと。彼は5月に末期癌と診断されて先月末に仮出所が認められ、今月13日に国内の病院で死去した。

ただし、中国の市民にとって、劉は英雄というわけではない。大半の中国人は名前を聞いたことがある程度で、全く知らない人もいる。知っている人も、私の経験では嫌悪感を隠さない。劉が危篤状態だと報じられていた頃、ある知人は、「タダで治療してもらえるのだから政府に感謝しろ!」とネットに投稿した。

中国の中流階級は、比較的リベラルな人々さえ、反体制派を軽蔑している。最初の反応は、何かしら非難する理由を見つけることだ。悪いのは被害者であって、彼らを逮捕し、拷問し、牢屋に入れる人々は悪くない。そういう社会なのだから、と。

そんな考え方に最初は衝撃を受けたが、次第に分かってきた。これは生き延びるための自己防衛であり、独裁主義に順応する1つの方法なのだ。

悪いことが起きるのは、本人に相応の理由があるはずだと、私たちは意識的にせよ無意識にせよ考えがちだ。公正な社会では全ての正義は報われ、全ての罪は罰せられるという、いわゆる「公正世界仮説」のためだ。祈りが足りないから癌になった、よく知らない街をうろうろしたからレイプされた、警察官にもっと敬意を表していればそんな扱いを受けなかったのに、といったものだ。

明らかに、そして恐ろしく不公正な世界を前にしたとき、人間は精神的な防衛機能として、世の中は公正だと思い込もうとする。自分がクモの糸で炎の上につり下げられていることに気付かないふりをして、他人の苦しみを正当化する理由を探し、自分は大丈夫だと根拠もなく安心したくなる。

しかも、中国の人々が本能的に見過ごしたくなる相手は、不公正な社会だけではない。不公正な政府という、より差し迫った恐怖がある。

公正世界仮説では、受け入れ難い現実に直面すると、精神的に許容できる物語に変えようとする。不公正をあからさまに否定するのではなく、肩をすくめて犠牲者のせいにする。社会の摂理にあらがっても仕方がない。嵐に向かって傘をさすようなものだ。

ほかの独裁国家と同じように、多くの中国人は、どんなときも権力が自分たちに対してすることに抵抗したくない。政府が市民を鎮圧するなら、犠牲者が悪い。どんな仕打ちを受けるのか分かっていたはずだ。戦おうと思うのが傲慢過ぎる。

【参考記事】獄中の劉暁波が妻に送った「愛の詩」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米メディケアの薬価引き下げ、大半の製薬企業は対応可

ワールド

米銃撃で負傷の州兵1人死亡、アフガン出身容疑者を捜

ワールド

カナダ、気候変動規則を緩和 石油・ガス業界の排出上

ビジネス

都区部コアCPI、11月は+2.8%で横ばい 生鮮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中