最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編2)

アフリカ象を横目にして

2017年6月27日(火)15時30分
いとうせいこう

美しい色は人が作る屋根、衣服。

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く

北部、南スーダン国境に向かって

4月22日早朝、六時。

雨期のおかげで朝夕は天気が不安定だった。

雷雨の中、俺と広報の谷口さんは、『国境なき医師団(MSF)』のウガンダチームが用意してくれたバンで、真っ暗な空の下、首都カンパラからひたすら北へと出発した。最終的には大規模なビディビディ・キャンプが目的地だったが、その南西にあるインベピという新しいキャンプも俺たちは見ようとしていた。広大なビディビディでも収まりきらない難民の方々がそこへ移り住んでいた。

昼間より早朝の方が交通量が多く、でこぼこ道で渋滞が起きていた。車もバイクもヘッドライトで互いに照らし合い、頻繁に親しく声をかけあっていて、前日の午後に見たのんびりした感じとはまた違った。

俺はテレビのロケで近頃、後部座席に寝かせてもらう手法を編み出しており、その姿勢でいるともともと悪い腰を痛めずにすむ(俺の名言「この方法なら、ロケをすればするほど健康になる」)。ということでリュックで作った枕に頭を置き、俺は強い雨音を聞きながらしばらく眠った。

一度起きると9時30分頃で、目の前はガソリンスタンドだった。青空が見えていた。降りて小さな食堂へ行き、コーヒー(プラカップにいっぱいのお湯を入れてくれる。中にインスタントコーヒーの粉を好きなだけ入れるシステムだ)とディープフライのチキンを買って、その場で食べた。

周囲はもちろん現地の人のみ。アジア人などまったく目にしない。それでもウガンダの人々は田舎であっても誇りが高いのだろう、こちらをじろじろ見ることをしなかった。ただ静かに朝の用事を次々すませてまた車に乗って去ったり、果物を持ってあたりに消えていくばかりだ。

そこから一時間ほどは眠らずに外を見た。広大な緑の平原であった。そこにまっすぐ舗装道路が走っており、バンは時々スピード調整のために道路に作られたふくらみをゆっくり乗り越える他は、ひたすら高速で行く。

たまに道の左右にトウモロコシ畑があり、マンゴーの大きな樹があって、必ず近くにこれまた小さなコンクリ製の家が控えている。その前で薪を割る人、じっと腰をおろしてどこかを見ている人、走る子供などが見えた。

ドライバーのウガンダ人ボサ・スワイブの話では、すでに右の奥に難民キャンプ(とはいうものの、現地でもそれは「セトルメント」と称されており、だからこそ居住区と言うべきなのだ)があり、道沿いに暮らす人々の多くも実は何年か前に難民として外の国からやって来たのだという。

これは非常に特徴的な事柄なので、俺たちがまたしばらく国立公園地帯を行き、ナイル川を右に見て道路を左に折れ、どこまでもまっすぐ走っていく間に説明しておこう。なにしろ出発から到着まで11時間かかるのだ。

ito0627b.jpg

MSF歴の長いドライバー、我らがボサ

前日ジャン=リュックにも聞いていたことだが、ウガンダは難民にとても寛容な政策をとっていて、国に入ってくる人々に土地を与え、耕作することを許可しているのだった。むろんそれだけ広い土地を持っているから出来ることだが、実際に難民たちは小さな家を建て(時にはレンガ、そして時には古くからの泥を固める場合もあるかもしれない)、自分たちの食べる分をまず作ることになる。

農業だけを許しているのかといえば、観察したところではそうではないが、これはまたあとで話すことにする。少しだけ言ってしまうと、人は商品を作り出せば市場を設けるものなのだ。移住区の奥で、俺はまるで人類史を見るような思いを抱いた。

さて、ところがすでに書いたように難民は数か月で85万人に届こうとしている。いくら土地が広くても、現地にいる人口以上になっていけば必ず摩擦は起きてしまう。だから一日二千人の流入は、もうすぐ臨界点を迎える可能性があるとジャン=リュックたち国際援助団体は見ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中