最新記事

法からのぞく日本社会

東京都議選の候補者が、政策を訴えるビラを配れない理由

2017年6月27日(火)10時42分
長嶺超輝(ライター)

6月23日、東京都議選の選挙運動で小池百合子知事の演説を聞く有権者たち Issei Kato-REUTERS

<6月14日に改正公職選挙法が成立し、地方議員選でのビラ配布が解禁された。しかし、施行は来年から。今まさに行われている東京都議選には適用されない。そもそも、なぜ禁止されてきたのだろうか>

6月14日、改正公職選挙法が国会で可決、成立した。告示日から投票日までの選挙期間中においては、都道府県議会、市議会、東京23区議会の議員選挙の候補者が、有権者に選挙運動のビラを配ることを解禁する内容である(町村議選での配布解禁は見送り)。これまでは許されていなかった。

ただし、この改正法が施行されるのは2019年3月からなので、今まさに熱い選挙戦が繰り広げられている東京都議会議員選挙には適用されない。つまり、今回の都議選の候補者は、ビラを配らずに有権者へ政策などを訴える必要がある。

【参考記事】小池都政に「都民」と「民意」は何を求めているのか

政策を訴える方法としては、街頭演説もあるし、現代ではインターネットも普及しているので、ビラでなくても政策を訴える手段はある。だが、よほどの有名候補者でなければ、わざわざ街頭演説を聴きに出かける人も少ないだろう。ネット上での政策提言は、積極的に候補者のサイトを検索して読みに行くか、SNSで友人知人が流しているものをたまたま目にするぐらいのものだ。

街頭などでビラを配布することは、選挙の候補者にとって、有権者へ能動的に政策をアピールできる貴重な手段である上、憲法で保障された言論の自由の一環でもある。

では、なぜそれが禁止されてきたのだろうか。その理由は、わが国における選挙ビラの歴史をひも解いてみると、痛いほどよくわかる。

留守中に自宅ドアにビラを貼られ、家に入れなくなった人も

普通選挙が始まり、有権者の人数が飛躍的に増えた大正末期から昭和初期にかけて、ビラは選挙の「華」といえたのかもしれない。各候補者は数十万枚単位のビラを用意し、自動車や人力車を走らせながら座席からばらまいたり、電柱や民家の塀にビッシリ貼り付けたりした。

開票結果が出て決着が付いた後、壁に貼り付けた選挙ビラの後始末をした候補者は、ほぼ皆無だったようだ。落選者だけでなく、当選者の陣営も放置していた。

もちろん、人々からの苦情も多かった。1928年の東京府議選(現在の東京都議選)の最中、留守にしていた自宅のドアや外壁に大量のビラを貼り付けられた都民がいた。ビラを勝手に貼られたにもかかわらず、勝手に剥がすと選挙違反になるという理不尽に見舞われてしまったのだ。深夜に自宅に入れなくなり、警察に保護を願い出たという。

静岡県清水市(現在の静岡市清水区)では、選挙運動車からばらまかれて地面に散らばったビラを拾おうとした幼児が、別の自動車に轢かれて重傷を負うという痛ましい事故も起きたと記録されている。

戦前にも選挙ビラの取り締まりが行われたことはあるが、「電柱に貼ってはいけないが、街灯の支柱なら構わない」などと、曖昧な規制だったこともあり、ちっとも減らなかったようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比5.3%増で予想上回

ワールド

米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ

ビジネス

中国新築住宅価格、3月は前年比-2.2% 15年8

ビジネス

仏BNPパリバ、中国で全額出資の証券会社 3年がか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中