最新記事

サイエンス

身体が不自由な患者の頭をドナーの身体に移植する「頭部移植」が現実に?

2017年6月15日(木)19時31分
ハンナ・オズボーン

頭部移植の理論的な仕組みを解説するイギリスのテレビ局 itvNEWS/YOUTUBE

<多くの医者に「死んだほうがまし」ともいわれる手術が、人間に迫る>

人間の患者で世界初の「頭部移植」を計画しているチームがラットを使って切断した脊髄を修復させる実験に「成功」。神経再結合の原理を実証できたとして、この手法が「あらゆる動物に有効」なことを示そうとしている。

イタリア人神経外科医セルジオ・カナベーロが人間で初の頭部移植手術をすると宣言したのは2015年。身体が不自由な人の頭を、ドナーの身体に移植して動けるようにするという悪趣味なSFのような話だが、今年中に行う予定で準備を進めている。

カナベーロは本誌の取材に応え、「ジェミニ」と名づけた神経結合方法をラットに試したところ、ラットは動けるようになり、拒絶反応も起きなかったと語った。

【参考記事】ラットの頭部移植に成功 年末には人間で?

最新の研究結果は学術誌「CNS Neuroscience and Therapeutics」で発表される。中国ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)率いる外科チームが15頭のラットの脊髄を切断。うち9頭にジェミニを施し、残りは対照群とした。

チームはポリエチレングリコール(PEG)を用いて切断により損傷した脊髄神経を再結合させた。まずラットの脊髄を切断し、アドレナリンを加えて冷却した生理食塩水で止血。その後、9頭はPEGで切断面を接着し、術後3日間抗生物質を与えた。

【参考記事】ペニス移植成功で救われる人々

1頭を除き、すべてのラットが術後1カ月間生存できた。PEGの処置を受けたグループは運動機能が「着実に」回復、術後28日目までに歩行能力を取り戻し、2頭は「ほぼ正常」と呼べる状態まで回復した。

身体機能もかなり元通り?

「この研究で切断された脊髄は『再結合』でき、行動回復も伴うことを確認できた。これまでにマウスで行った一連の実験と今回の実験で、マウスとラットの回復ペースも明らかになった。マウスが1週間かかるところ、ラットは2週間かかる」と、チームは報告している。成功のカギは執刀医の手際で、損傷を最小限に抑えるよう神経の束をスパッと「鋭く切断する」技術が求められるという。

だが人間への応用は本当に可能なのか。「ここで論じた手法を人間の患者に応用する場合、神経の再結合レベルを評価できる走査技術が役立つだろう。この評価は臨床的回復と直接的に関連付けられる」と、カナベーロは言う。

結論として、この手法で脊髄損傷による身体機能の低下を「かなりの程度」元に戻せる可能性があると、チームは述べている。

【参考記事】プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正常に発育

カナベーロは本誌に対し、「ラットを使った対照実験でジェミニの有効性を実証できた」と語った。これにより「小規模の原理実証研究」が「基礎的な進歩」をもたらすことが分かったという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル北部の警報サイレンは誤作動、軍が発表

ワールド

イスファハン州内の核施設に被害なし=イラン国営テレ

ワールド

情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか

ビジネス

マイクロソフトのオープンAI出資、EUが競争法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中