最新記事

サイエンス

細菌の感染ルートを探るには、お札を追え!

2017年5月22日(月)20時17分
ジェシカ・ワプナー

多くの人の手を介すお札には細菌がたくさん付いている Jason Lee-REUTERS

<香港の研究で、手の平や地下鉄構内の空気より、紙幣の表面に細菌はたくさん棲み、しかも長生きしていることがわかった>

キャッシュレス時代の到来で、現金離れが進んでいる。現金を持ち歩かなくてよいということには、意外なメリットもありそうだ。なんと紙幣には、生きた細菌ごっそり付着しているのだ。

過去の研究で、細菌が紙幣の表面で生存できることは分かっていた。だが香港で行われた最新の研究は、この細菌集団に想像を超える生命力があることを突き止めた。だとすると紙幣は、都市にはびこる細菌の感染ルートを監視するための優れた情報源になる。

【参考記事】スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡


香港大学の研究チームは、紙幣に付着した細菌の生存期間を調べるため、香港市内にある12の医療機関と3つの地下鉄駅から1枚ずつ、合わせて15枚の香港ドル紙幣を回収した。彼らが最初にやったのは、本当に細菌が紙幣の上でも死なないのかを確認すること。そのため、いったん紙幣から取り除いた細菌を、寒天を使って異なる種類の細菌や微生物を培養した何種類ものペトリ皿にそれぞれ移し替えた。スイスの科学誌「フロンティアズ・イン・マイクロバイオロジー」に掲載された結論によると、移植した細菌はすぐに繁殖、細菌が紙幣に付着した状態で生存できることが裏付けられた。

紙幣が細菌追跡の目印に

香港の紙幣に最も多く付着する細菌は、ニキビを引き起こす「プロピオニバクテリウム・アクネス(アクネ菌)」だ。アクネ菌の1種は、2013年に全身に腫物ができる難病「サルコイドーシス」の患者から見つかった。の体内から取り除く手術が初めて実施された。研究で調べた15枚の紙幣に付着していた細菌のうち、約36%に病原性があった。人体に感染する恐れがあるということだ。必ずしも人体に危険を及ぼすとは限らないが、紙幣が病原菌の巣窟であることは間違いない。

【参考記事】パーキンソン病と腸内細菌とのつながりが明らかに

「アシネトバクター」と呼ばれる細菌も多く見つかった。アメリカ疾病予防管理センターによると、この種類には、主に地中や水中で見つかる多様な細菌が含まれる。これまでに確認されたあらゆるアシネトバクターは人体への感染を引き起こす可能性があるその大半は「アシネトバクター・バウマニ」と呼ばれる細菌だ。通常、健康な人がこの細菌の影響を受けることはない。ただし免疫が弱く、慢性の肺疾患や糖尿病などの持病がある人なら、肺炎や傷口感染を引き起こす恐れがある。

医療機関と地下鉄駅という紙幣の採取場所の違いによって、付着していた細菌集団に違いは見られなかった。それは細菌が広範な地域に飛び交うことを示す重要な結果だ。論文執筆者らは、紙幣が「都市のマイクロバイオーム(人体にすむ微生物)を追跡する役割を担う」と理論立てた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中