最新記事
BOOKS

エコノミスト誌が未来のテクノロジーを楽観視する理由

2017年5月10日(水)11時54分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<対象をテクノロジー(技術)に絞り込んで、2050年に起こるであろう変化を予測した『2050年の技術』。心躍るスリリングな予測を生み出した寄稿者たちの信念とは?>

2012年に『2050年の世界』という書籍が発行された。英『エコノミスト』誌が、人口動態、宗教、経済、文化などさまざまな側面から2050年に起こるであろう変化を予測したものである。そして、対象をテクノロジー(技術)に絞り込んだその姉妹編が、今回ご紹介する『2050年の技術――英『エコノミスト』誌は予測する』(英『エコノミスト』編集部著、土方奈美訳、文藝春秋)。

寄稿しているのは、『エコノミスト』誌のジャーナリストのみならず、科学者、起業家、研究者、SF作家らと多岐にわたっている。「2050年までの今後数十年にわたり、技術がどのように発展し、われわれにどのような影響をおよぼすのか」について、各人がそれぞれの視点に基づいて予測しているのである。

まず6つの章に分かれた第一部では、テクノロジーの未来の大前提に関わる問題、あるいは変化を促したり制約したりする要因を考察している。次いで第二部では、農業を筆頭とするさまざまな基幹産業に対してテクノロジーがもたらす変化に焦点が当てられる。そして、これから登場するテクノロジーが社会的、政策的に及ぼす影響について触れたのが第三部だ。

相応の基礎知識が必要とされる箇所も少なくないため、すべてを理解することは現実的に難しいかもしれない。事実、自慢できるほどテクノロジーに詳しいわけでは決してない私にとっても、そんなパートは少なくなかった。

しかし、読んでいるとそれでも、心が躍ってくるのがわかった。未来に向けられた視点と考え方が、とてもスリリングだからだ。感性を刺激するポイントが、数ページに1回程度の割合で現れるとでもいおうか。それらは、私たちが未来に向けて生きているという事実を立証するものであり、その先に「未来」があることも明らかにしてもいる。

広範なテーマのすべてについてここで解説するのは難しいが、ここでは個人的に最も引き込まれた第1章「日本のガラケーは未来を予測していた」に焦点を当ててみたい。

『エコノミスト』誌を代表するテクノロジー・ライターであるトム・スタンデージは、まずは歴史を振り返って過去のテクノロジーを検証したのち、「未来を予見するために目を向けるべきもの」として現在に焦点を当てている。その中心にあるのは、日本のガラケーと女子高生だ。


SF作家のウィリアム・ギブソンの有名な言葉に「未来はすでにここにある。均等に行きわたっていないだけだ」というものがある。テクノロジーの懐胎期間は驚くほど長い。突然登場するように見えて、実はそうではないのだ。
 だから、正しい場所に目を向ければ、明日のテクノロジーを今日見ることができる。(中略)それは「エッジケース(限界的事例)」、すなわち広く普及する前に、特定の集団や国だけで広がりつつある事例を探すことにほかならない。わかりやすい例が二一世紀初頭の日本におけるガラケーだ。(25ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中