最新記事

科学

「男と女のどちらを好きになるか」は育つ環境で決まる?

2017年5月7日(日)16時04分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

svetikd-iStock.

<人が異性愛者になるか同性愛者になるかは先天的に決まるのか、それとも社会環境によって刷り込まれるのか。ボストン大学の認知神経科学者2人による性的欲望の研究より>

性的欲望を生み出す脳のソフトウエアはどんなしくみになっているのか? そんな疑問を抱いたボストン大学の認知神経科学者、オギ・オーガスとサイ・ガダムは、インターネットを情報源に使って「世界最大の実験」を行い、1冊の本を世に送り出した。『性欲の科学――なぜ男は「素人」に興奮し、女は「男同士」に萌えるのか』(坂東智子訳、CCCメディアハウス)だ。

4億の検索ワード、65万人の検索履歴、数十万の官能小説、数千のロマンス小説、4万のアダルトサイト、500万件のセフレ募集投稿、数千のネット掲示板投稿――これらをデータマイニングにより分析した彼らは、読み物としても濃密な1冊に仕上げている。

ここでは本書の「第1章 大まじめにオンラインポルノを研究する――性科学と『セクシュアル・キュー』」から一部を抜粋し、3回に分けて転載する。シリーズ第1回は「性科学は1886年に誕生したが、今でもセックスは謎だらけ」、第2回は「性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う」。この第3回では、第2回の続きを掲載する。

◇ ◇ ◇

「男と女のどっちを好きか」を決めるもの

 1965年、カナダのマニトバ州で、生後2週間の男児デイヴィッド・ライマーに包茎切除手術を施しているとき、担当した泌尿器科医が誤って、電気焼灼針でデイヴィッドのペニス全体を焼き落としてしまった(北米では当時、宗教上の理由ではなく、衛生上の理由から割礼を行うのが一般的だった)。このゾッとするような悲劇に直面したライマー夫妻は、当時、性科学者としてもっとも高名だった、ジョンズ・ホプキンス大学のジョン・マネー博士に相談を持ちかけた。マネー博士は、性欲は、完全に社会環境からの刷り込みによって生まれると信じていた。彼はこう言って、ライマー夫妻を安心させた。「何も心配はいりませんよ。奥さんが女の子を産んだ場合につけるはずだった名前を思い出してください。デイヴィッドに女性器をつける手術をしましょう。男性器を失った息子さんを娘として育てればいいんですよ」

 こうしてライマー夫妻は、男として生まれた「娘」を持つという、想像しうるもっともデリケートな秘密を抱えることになった。彼らは娘のブレンダに、その秘密を明かすことはなかった。彼女にドレスを着せ、人形を与え、ホルモン治療を受けさせた。ボルチモアにあるマネー博士の研究室に通って、ブレンダにセラピーも受けさせた。性欲は社会環境から刷り込まれたものと主張する学者は、少女にいったいどんなセラピーを施したのだろうか? マネー博士は、幼いブレンダに成人男性のヌード写真を見せ、こう言いきかせた。「これはね、大人の女の人が好きなものだよ」。マネーはブレンダの成長を喜んだ。学会では、10年以上にわたり、新生児の段階で性を転換する世界初の実験は、「完全な成功をおさめた」と報告し続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 9
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中