最新記事

イギリス

メイ英首相が衝撃の早期解散を決断した理由──EU離脱の政局化は許さない

2017年4月19日(水)16時00分
ジョシュ・ロウ

ロンドンの首相官邸前で早期解散を発表するメイ首相 Toby Melville-REUTERS

<EU離脱の「政局化」は国益を損なう。そう思ったメイは、自らの高い支持率を背景に解散の3年前倒しを決断した>

昨年7月の英首相就任以来、総選挙の早期実施を否定してきたテリーザ・メイが急転直下、解散総選挙の方針を打ち出した。

20年に実施される予定だった下院選挙を前倒しして6月8日に実施する。イギリスの首相には議会の解散権がないため、下院に動議を提出して3分の2議席以上の支持を得なければならない。半数余りの議席を持つ与党・保守党の支持が見込めるほか、野党第一党・労働党のジェレミー・コービン党首も「労働党がイギリスの人々のためにいかに戦うかを示す」チャンスだと受けて立つ姿勢を示し、動議可決は確実とみられる。

【参考記事】ブレグジット後も、イギリスは核で大国の地位を守る

なぜ、このタイミングで実施するのか。まず第一にメイは選挙を通じて国民の信任を得る必要がある。昨年6月、EU離脱を選択した国民投票の結果を受けて、デービッド・キャメロン前首相が辞任を表明。7月に行われた保守党の党首選で他候補が次々に脱落したため、メイが党首となり首相の座に就いた。そのためメイは国民ばかりか党の信任も受けていない形だ。

今なら、選挙をすれば保守党の勝利はほぼ確実だ。英世論調査機関ユーガブ、コムレスの調査ではいずれも17日時点で保守党が労働党に支持率で20ポイント超も水を開けている。キャメロン政権の末期には、保守党の支持率は30%半ばまで落ち込んだが、メイ政権下で持ち直して今は40%弱だ。

EU離脱の政局化は国益に反する

メイはまた、EUとの離脱交渉に向けて政権基盤を固める必要がある。英政府は3月末にEUに正式に離脱を通知。それ以前に選挙を行えば、離脱阻止の動きが高まり、混乱が広がりかねなかった。本格的な交渉が始まれば選挙どころではなくなるため、今が選挙実施の「1回限りのチャンス」だと判断した。

【参考記事】トランプ「異例の招待」に英国民猛反発でエリザベス女王の戸惑い

EUとの交渉に向け、国内の意思統一も欠かせない。EU離脱を政局にし、「政治ゲームに明け暮れる」野党の姿勢は、「国内で離脱の準備を整えるために必要な作業の足を引っ張り、EUとの交渉で政府の立場を弱くする」と、メイは厳しく批判した。

もっとも、メイがあえて語らなかった事情もある。与党の保守党内にも教育改革をはじめメイの掲げる政策に強固に反対する一派がいる。選挙で勝てば、メイは党内でも基盤を固め、キャメロン路線を引き継ぐだけでない独自色を打ち出せる。

【参考記事】一般人に大切な決断を託す国民投票はこんなに危険

さらに保守党の一部議員は15年に実施された前回の総選挙で収支報告に虚偽記載があった疑いが持たれており、今年3月に警察が検察局に捜査報告書を提出したばかり。訴追が決まり刑が確定すれば、保守党は最高20議席を失う可能性があるが、今回の選挙で圧勝すれば下院の単独過半数を維持できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア巡り保険会社批判 個人への直

ビジネス

英金融当局、リテール投資家の証券投資促進に向けた改

ビジネス

英インフレ率、近いうちに目標回帰へ=テイラー中銀金

ワールド

ウクライナ和平交渉、主権尊重と長期的安全保証が必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中