最新記事

中国

「日本の汚染食品」告発は誤報、中国官制メディアは基本を怠った

2017年3月27日(月)17時22分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

CCTV『315晩会』より

<無印食品やイオン、カルビーが名指しされたCCTVの特番『315晩会』は完全な誤報だった。中国人の間でも反発が広がったが、その背景にあるものとは>

昨年、本欄で「アップルも撃沈させた中国一恐ろしいテレビ特番、今年の被害者は?」との記事を書いた。「世界消費者権利デー」(毎年3月15日)に放映される、中国中央電視台(CCTV)の特別番組『315晩会』の紹介だ。国内外の"悪徳企業"を次から次へとメッタ斬りするという構成で、槍玉に挙げられた企業が超速で土下座して謝罪するところまでが一連の流れである。

今年は迎撃ミサイルシステム「THAAD」配備に伴う中韓関係悪化を受け、韓国企業が叩かれるのではとも噂されていたが、意外にも槍玉に挙げられた外資は日本産食品と米スポーツメーカーのナイキだった。日本産食品に関する報道を簡単に紹介しよう。


2011年の福島第一原発事故を受け、中国政府は福島県や新潟県、栃木県、東京都など12都県で製造・生産された食品、農作物、飼料の輸入を禁止した。ところが近年、中国で人気の越境EC(海外商品を購入する電子商取引)では原産地「日本」とだけ書かれた食品が大量に流通しているではないか。

調べてみると、天津市の保税区倉庫からは栃木工場で製造されたカルビー「フルグラ」が大量に見つかった。無印良品で販売されている飲料、イオンで販売されているレトルトご飯には日本から輸入された商品に中国語のラベルが貼られているが、そのラベルを剥がすと下に隠されていた日本語の説明には原産地が東京都、新潟県と記されている。

深圳市市場稽査(けいさ)局の初期的調査によると、中国で日本の核汚染食品を販売している疑いのあるネットショップは1万3000店以上に上るという。この問題について、深圳市市場稽査局は全面的な対策を実施していく方針だ。

CCTV公式サイト「【315曝光】日本核污染区食品遭热销 奶粉麦片均在列」より

【参考記事】中国TVの「日本の汚染食品が流入!」告発は無視できない重大事

各社は原産地証明を取得していると反論

悪事を暴いたと意気揚々のCCTVだったが、放送後ほどなくして番組が間違いだらけの手抜き取材だったことが判明する。

まず12都県からの輸入を禁止という2011年4月8日の通達だが、同年6月13日には山形県、山梨県を除外した10都県に改訂されている。最も根本的な政府通達を取り違えているわけだ。

また無印良品イオンはそれぞれ声明を発表。名指しされた商品はいずれも輸入禁止の10都県以外で生産された商品であり、原産地証明を取得するなど正規の輸入手続きを経ていることを明らかにした。

ラベルの下から出てきたという日本語表記の製造地表記はCCTVの勘違い。書かれていたのは本社の住所である。CCTVは基本的な確認を怠ったばかりか、ろくに日本語を読めるスタッフすら動員していなかったのだ。カルビーも正規ルートでは10都県以外の工場で製造された商品を輸出しており、原産地証明も取得しているとの声明を発表している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アサヒGHD、ランサムウエアの攻撃を確認 システム

ワールド

仏首相、予算案巡り特別権限行使を否定 合意責任を議

ビジネス

安川電機、今期の営業益予想を上方修正 米関税コスト

ワールド

バルト海ケーブル切断、フィンランドに法的管轄権なし
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中