最新記事

オランダ下院選

極右政治家ウィルダースはオランダをどう変えるか

2017年3月14日(火)18時43分
ジョシュ・ロウ

ウィルダースの立場は複雑だ。今年に入ってから公表された世論調査では、PVVが支持率の首位に立つことが多いが、他の主要政党はPVVとは連立を組まないと宣言している。イデオロギーの面で意見が合わない上、これまでの経緯からウィルダースを信用できない理由がある。ウィルダース率いるPVVは、2010年から2012年にかけて、当時のルッテ政権に閣外協力という形で参加したが、ウィルダースが財政支出削減に反対したため政権が崩壊した。他の政党が前言を撤回しない限り、PVVは最大政党でも政権からは締め出されることになる。

だがこれはある意味で、ウィルダースにとって理想的なシナリオかもしれない、とケンブリッジ大学で極右政党を研究するレオニー・デヨングは指摘する。PVVが最大政党になっても連立を立ち上げられないという事態になれば、ウィルダースは裏取引を通じて政権に影響力を行使する。そのほうが、反エスタブリッシュメントというイメージは保たれる。

「ウィルダースは首相になるつもりはない、というのが大方の見方だ」とデヨングは述べる。「部外者でいた方がもっと多くのことができる。ウィルダースは、負け犬のアウトサイダーという役割を演じるのがとてもうまいのだ」

偏狭になった心

「オランダの脱イスラム化」を前面に掲げるウィルダースは、イスラム教の礼拝所モスクの閉鎖や聖典コーランの発禁、政府による難民受け入れ政策の根本的な見直しなどを主張。EU離脱を問う国民投票の実施も求めている。

兄のポールは、ウィルダースが政権を獲る代わりに自分の信念を手放す可能性は低いとみる。「ここ数年の弟は、単に政治的影響力や権力を手に入れたがっていただけだった」。だが差別的な言葉で多くの人々の怒りを買い、極端に厳しい警備がまとわりつくようになった現在の「孤立した」生活のせいで、ウィルダースは偏狭になり、自分の主張が正しいと信じ切ってしまったとポールは指摘する。

「誰が連立に参加しようと、向こう4年間、弟は厄介な野党勢力になる。まさにそれが彼の目的だと確信している。短命になるのが目に見えるから、そもそも政権入りを狙っていない」

EU懐疑論や移民政策で、ウィルダースが数の力を利用して連立与党を右方向に引きずり込む光景は、容易に想像できる。現にデンマークの右派ポピュリスト政党、デンマーク国民党は、与党ではないが閣外協力することで強い影響力を発揮し、中道右派の連立政権の移民政策を一段と強硬なものにさせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中