最新記事

韓国政治

どうなるポスト朴槿恵の韓国

2017年3月11日(土)11時30分
西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)

弾劾訴追案の可決から今日までの韓国内の雰囲気(韓国で言うところの「時代精神」)は、「政権交代への熱望」にあふれていた。したがって、選挙戦は野党陣営有利で進むことになるが、大統領罷免を受けて理念対立のさらなる深刻化など国内状況に変化が起これば、それは選挙戦の動向にも影響を与えることになる。

第2の候補者についても、各種世論調査結果から現状では野党優勢が明らかである。3月10日発表の韓国ギャラップ調査によれば、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)元代表が32%の支持を得てトップを走り、同じ党の安煕正(アン・ヒジョン)忠清南道知事と李在明(イ・ジェミョン)城南市長がそれぞれ17%、8%の支持を得ている。

今後約ひと月かけて行われる党内予備選挙では、文・元代表優勢が予測されるが、安知事がどこまで支持を伸ばせるかが注目されている。第2野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏の支持が9%にとどまる中、共に民主党の候補になった者が本選挙でも有利な戦いを進めることは間違いない。

国論分裂の中いかに戦うか

一方、与党陣営には有力候補が不在であり、そのためもあって現在大統領権限代行を務める黄教安(ファ・ギョアン)首相が9%の支持を集めている。しかし、朴槿恵政権の首相である黄氏が出馬を表明すれば、政権交代を望む国民から大きな反発を招くのは必至である。

以上を踏まえると、野党候補の有利は揺るぎないかに見える。しかし、第3のポイントである選挙構図がどうなるのかによって、選挙結果は大きく変わりうる。つまり、保守対進歩(与党系対野党系)候補の一騎打ち、つまり2大対決になるのか、あるいは有力候補が複数出馬して3者対決、4者対決になるのかは、有権者の投票行動に大きな影響を及ぼしうる。

現在のところ可能性は高くないが、かりに2大対決となれば保守勢力の結集が起こり、保守系候補がかなりの票を獲得するかもしれない。これから約2カ月のあいだに、各党、各勢力がどう連携するのか、さらには候補者一本化の動きがあるのかどうか、から目が離せない。

最後に、次期韓国大統領は、誰が就任しても、国政運営にあたり大きな困難に直面することになる。朴槿恵政権下で先鋭化した保守対進歩の理念対立、弾劾政局が続く中で深まった国論分裂の中で、新政権をスタートさせなければならないからである。

歴代大統領選挙と異なり、選挙直後から新政権の発足となるため、過去の政権交代では約2カ月間あった政権移行期間は存在しない。そのため、歴代政権が当選から政権発足までの間に行ってきた、選挙公約を踏まえた国政課題の決定や次期政権人事の選定のための時間がない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価は再び安定、現在のインフレ率は需給反映せず=F

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 6
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 10
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中