最新記事

インタビュー

アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

2017年3月31日(金)11時10分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

かつお節そのままの輸入は当初違法だった

――ニューヨークと日本で、水に違いはあるか。

ある。ニューヨークの水は軟らかくておいしい。硬いよりも軟らかいほうが出汁(だし)が出やすいので、水に限って言えばニューヨークは和食に適していると言える。

あとは、その水をどのように「ろ過」して使うかだ。ニューヨークはビルが古いし、貯水タンクもだいたい建物の上のほうについていて、そこから水道管で降りてくる。水道管によっては1800年代~1900年代初頭のものもあるので、何を使ってろ過するかがポイントだ。

饗屋ではロケットのような大きなろ過装置を2つ設置していて、トイレの水まで全てろ過している。

ニューヨークの水は、飲んでもおいしい。自分は北海道出身だが、高校の修学旅行で東京に行った際にホテルで水道水を飲んで衝撃が走った。「まずっ!」と(笑)。「水に味がついている!」と、びっくりした。その経験があったのでニューヨークの水を心配していたのだが、意外にも美味しかった。

――「アメリカ人の客」を想定してメニューを作ることはあるか。アメリカ人に人気の「味」と言うと?

アメリカ人は甘い味付けが好きだとか、スパイシーなものが好きだとかはもちろんあるが、アメリカ人向けに変えることは一切ない。全て、自分がおいしいと思うものを出している。

饗屋でアメリカ人の客に人気の「味」というと、やはり出汁だ。

かつお節というのはカビ付けされていて、例えば本枯節だったら半年くらいカビ付けして、白くなったものを削って中を使う。

カビが食材として国外から入ってくるというのはアメリカ側としては受け入れられないので、かつお節を丸のまま輸入するのは違法だ。だが日本政府が交渉してくれた結果、真空パックの削り節に限り認められるようになった。

饗屋では大量の出汁を使うので、愛媛のカツオ問屋さんに自分が調合した削り節を送ってもらっている。直火で炙ったカツオにしているのでかすかにスモーキーで、うちの出汁を飲んで感動してくれるアメリカ人はたくさんいる。

饗屋に来るアメリカ人のお客さんは日本食通であり、味に対してプロフェッショナルな方達が多い。そんな彼らが喜ぶのが出汁だ。

――特にアメリカ人に人気のメニューと言えば。

胡麻豆腐、サツマイモの天ぷら、海老しんじょう、豚の角煮......。魚だと、西京焼き。

今は「銀鱈の粒味噌焼き」が定番だが、うちでは「白粒味噌」にみりん等の甘みを加えないまま使っているので、一般的な西京焼きと違って甘くない。味噌自体がおいしいので、味噌の甘さだけで出している。

これを食べたアメリカ人はみんな、どこで食べても普通は甘いのにここは甘くないよねと言う。アメリカ人は甘いのが好き、と言われるが、そうではない人もたくさんいる。

ny170331-1.jpg

アメリカ人に人気の「銀鱈の粒味噌焼き」。一般的な西京焼きと違って甘くない Satoko Kogure-Newsweek Japan

あと人気があってやめられないのが、「鰻有馬煮のサンドウィッチ」(ウナギのかば焼きをバターを塗った食パンに挟んだメニュー)。ニューヨークの人は皆さんウナギが好き。ウナギのタレの、バランスのとれた甘辛が好きなのだろう。

鰻丼も、甘すぎるところだとたくさんは食べられない。すごく甘いと途中で飽きてしまって、「美味しかったけどもうお腹いっぱい」となるが、ちょうどいいバランスの甘さだと最後まで全部食べられて、「あぁ、美味しかった!」と言える。

ny170331-3.jpg

「鰻有馬煮のサンドウィッチ」。ニューヨーカーはウナギが好き Satoko Kogure-Newsweek Japan

【参考記事】世界も、今の人たちも、和食の素晴らしさをまだ知らない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院、政府機関閉鎖回避に向けつなぎ予算案審議へ 

ビジネス

FRB0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用にらみ年内

ビジネス

ウェイモ、リフトと提携し米ナッシュビルで来年から自

ワールド

トランプ氏「人生で最高の栄誉の一つ」、異例の2度目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中