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パキスタン

不屈の少女マララが上る大人への階段

2017年2月7日(火)10時00分
ミレン・ギッダ

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国連本部で記者会見し教育への投資強化を呼び掛けるマララ(中央、15年9月) Darren Ornitz-REUTERS

英サンデー・タイムズ紙の海外特派員で『わたしはマララ』の共著者でもあるクリスティーナ・ラムは、マララは多くの賞と世界的名声を獲得したが、彼女の人生のピークはまだ先だと語る。「あれほど雄弁で情熱的で、強い決意を持った人に出会ったことがない。いつかパキスタンの首相や国連事務総長になったとしても、私は驚かない」

今のユサフザイは自分のために最高の教育環境を手に入れる決意だと、ラムは指摘する。ユサフザイにとって大学は「さまざまな問題を考え、多くの国の状況を変え、結果を出すためのツール」なのだという。

「さまざまな違う考えを吸収している」と、ユサフザイは言った。「以前は弁護士とか医者、自動車修理工、アーティストになりたかった。時々、政治家になってパキスタンの首相になりたいと思うこともあった」

政治への野心をもっとはっきり口にしたこともある。昨年10月、アラブ首長国連邦(UAE)で開催された女性問題の会議では、パキスタン首相になりたいと明言した。1年前には英ガーディアン紙の取材に対し、「私たちの国の政治家は、国民のため、平和や教育のために何もしていない。私は祖国の首相になりたい」と語っている。

この発言は無邪気な夢か、周到な計算に基づく自信の産物なのか。答えはまだ分からないが、彼女はほかのどんな19歳よりも世界の指導者と共に過ごした時間が長い。政治的権力のない活動家では、たとえ世界的有名人でも世の中を変えられないという結論に達したのかもしれない。

母国のパキスタンを含む南アジアでは、欧米の団体やメディアが彼女にセレブの地位を与えたという批判をよく耳にする。ユサフザイについての記事を執筆したインドの作家のタビシュ・カイルはこう指摘する。

「彼女をアイドル扱いするのは、ほかの多くの『マララたち』を否定することだ。彼女たちの多くはごく普通のまま、例えばおとなしく顔をベールで覆いながら、大人たちが眉をひそめても学校に通っている。もしマララが欧米のアイドル以上の何かを成し遂げれば、彼女たちにとって大きな意味を持つ」

【参考記事】少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルーン出身の被害者語る

卒業後に待つ大きな責任

自分の名声が目標の足を引っ張るリスクについては、ユサフザイ自身が何度も認めている。13年の国連演説ではこう述べた。「『マララの日』は私の日ではありません。すべての女性の日、自分の権利のために声を上げたすべての少年少女の日です」

1年後、ノーベル平和賞の受賞スピーチでも同様の趣旨を繰り返した。「私が自分の経験を話すのは、それが特異なものだからではありません。たくさんの少女たちが経験したことだからです」

ユサフザイは記者とのインタビューで、自分はセレブではないと主張した。気持ちは分かるが、世界的な有名人であることは否定できない事実だ。

だが、名声は役に立つ道具でもある。父親のジアウディンと設立したマララ基金は、世界中の女子教育に資金援助を行い、女子教育普及のために地域や国、世界レベルでロビー活動を行う団体だ。

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