最新記事

中国

「くだらない」中国版紅白を必死に見る人たち

2017年2月4日(土)12時02分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

プロパガンダがぎっしり詰まっている

そうした中で、今でも必死になって春晩を見ている人もいる。それが私を含むチャイナウォッチャーたちだ。というのも、春晩にはプロパガンダがぎっしり詰まっている。これを見れば中国政治を理解するヒントになるのではないかと、頑張って見ている人が少なくない。

たとえば中国人風刺漫画家のラージャオは1983年から始まった春晩をすべて見返したという。その成果は『マンガで読む嘘つき中国共産党』(新潮社)で「春晩政治学」としてまとめられている。

さて、最近の春晩はどのように読み解かれているのだろうか。2015年、2016年は習近平礼賛が度を超しているとちょっとした話題となった。子供たちが「習主席に私の心を捧げます」と歌ったかと思えば、楽曲の背景に歴代指導者の映像が挿入されるシーンでは毛沢東や鄧小平、江沢民、胡錦濤といった歴代指導者の2倍もの数のカットが流された。

「鄧小平が禁じた、指導者の個人崇拝を復活させた。習近平は毛沢東以来となる皇帝の座を目指しているのだ」という政治ゴシップを盛り上げる根拠として広まっている。

では2017年の春晩はどうかというと、これが昨年から一転、習近平礼賛が消滅していたのだ。G20サミットの成功、宇宙事業の発展という自慢、今年5月に予定されている一帯一路国際フォーラムを盛り上げようという呼びかけ、中国人同士信頼し合いましょう・漢民族と少数民族は団結しましょうという道徳ネタは盛り込まれていたが、習近平の出番はゼロだった。

【参考記事】米中、日中、人民元、習体制――2017年の中国4つの予測

あれだけ個人崇拝路線を邁進していたのに、なぜ今さら路線転換したのか、第2期習近平政権が始まる今秋の党大会を控えて中国共産党内に動きがあるのではないか。習近平が出れば出たで騒ぎとなるが、まったく画面に映らなくともさまざまな憶測を呼んで、中国政治ゴシップ好きの間ではちょっとした話題となっている。

若者の春晩離れが問題となっているが、中国政治ウォッチャーの中では人気は衰えを知らないようだ。

*2017年2月28日、『マンガで読む嘘つき中国共産党』刊行記念トークショー、辣椒×阿古智子×高口康太「中国共産党の〈ウソ〉と〈真実〉」が東京都新宿区矢来町で開催されます。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中