最新記事

東南アジア

インドネシア民主主義の試金石となるか  注目のジャカルタ州知事選が15日投票

2017年2月14日(火)11時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ジャカルタ特別州の知事選で再選を目指すアホック(ステージ上の右)と支持者 Wahyu Putro A/Antara Foto/REUTERS

<イスラム急進派が勝つか、国是の多様性を守る候補が勝つか、インドネシアの成熟度が試される>

インドネシアは15日、統一地方選の投票日を迎える。6州の知事選、18の市長選そして76の県知事選が一斉に投票されるが、国民の最大の関心は首都ジャカルタ特別州の知事選挙である。3組の正副知事候補者による10月末からの長い選挙活動も11日で終わり、3日間の冷却期間を挟んで投票日を迎える。投票は即日開票され、同日夕方には大勢が判明する見通しだが、過半数を獲得するペアがいない場合は上位2組による再投票となる。

これまでの各種世論調査では現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ知事(通称アホック、50)がリードしているが、50%を超える結果は少なく、再投票の可能性が高いと予想されている。

しかし、筆者は15日の投票でアホック候補が過半数を獲得し再選されると(個人的な期待を込めて)読んでいる。

というのも今回の知事選はこれまで過去の知事選あるいは統一地方選の他の選挙と比較しても特別な意味を持っていると考えるからだ。インドネシアという人口世界第4位、イスラム教徒人口世界最大を擁する巨大な国家の民主主義が問われる試金石の選挙になる。ジャカルタの選挙民は民主主義を十分に理解し、政治的・社会的に成熟していると信じてもいる。

【参考記事】イスラム人口が世界最大の国で始まったイスラム至上主義バッシング

問われた宗教、国是、建国の精神

今回のジャカルタ知事選には現職ペアのほかにユドヨノ前大統領の長男で軍人出身のアグス・ハリムルティ・ユドヨノ候補(38)、前教育文化大臣のアニス・バスウェダン候補(47)がそれぞれの副知事候補とペアを組んで立候補している。2016年9月にアホック候補が行った演説の中の一節が「イスラム教徒を侮辱している」と一部イスラム急進組織が騒ぎ、アホック候補は「宗教冒涜罪」の被告として裁判を抱えながらの選挙戦となった。

イスラム急進派による反アホック運動は大規模デモ、ネガティブキャンペーンと勢いを拡大したが、インドネシアは世界最大のイスラム人口を擁しながらも「イスラム教国」ではなくキリスト教、仏教、ヒンズー教など多宗教を認める「多様性の中の統一」を国是とし、寛容と協調の精神に基づく民主国家を標榜してきた。

【参考記事】ジャカルタ州知事選に乗じる政治・社会の混乱とテロに苦悩するインドネシア

そうした建国以来の精神、1998年に長期独裁スハルト政権を倒して実現した民主主義、人道主義や社会的公正などを掲げる「パンチャシラ」と呼ばれる建国5原則などインドネシア人の寄って立つ心の基盤をこのイスラム急進派の動きは大きく揺さぶった。

【参考記事】スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中