最新記事

米政治

オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

2017年1月11日(水)21時41分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Jonathan Ernst-REUTERS

<1月10日のオバマの退任演説は大きな注目を集めたが、実はきわめて「異例」のスピーチだった。歴史上、あのような形で最後の演説を行った大統領はいない>

 第44代アメリカ大統領のバラク・オバマが10日夜、大統領として最後の演説を地元シカゴのコンベンションセンターで行った。さながらロックコンサートのような熱気の中、約1時間にわたった演説は大いに注目された。ワシントン・ポストは演説の最中から原稿を書き起こし、注釈をつけて続々とサイトに掲載していった。

 オバマは医療保険制度改革(オバマケア)や雇用創出など、2期8年の任期中の成果を訴える一方、民主主義などアメリカの価値観を守っていく必要性に多くの時間を割いた。妻ミシェルと2人の娘らへの感謝を述べた終盤には涙も見せた。途中、割れんばかりの拍手が何度も沸き起こり、「もう4年!」といった声が聴衆から相次いだほどだ(オバマはそれに対し「それはできない」と答えた)。

【参考記事】オバマ大統領が最後の演説、米国の価値の低下阻止訴える

 一方、米ニューズウィークは「不完全ながら卓越したオバマの退任演説」、CNNは「オバマ、退任演説で楽観主義と警告を示す」、USAトゥデーは「分析:希望を持ち続ける? オバマが自身の大統領職務を擁護」、ニューヨーク・タイムズは「オバマ、別れを告げながら、国の結束に対する脅威を警告」などと論評。米メディアは現場の熱狂に比べ、おおむねバランスの取れた取り上げ方をしていたようだ。

 ただ、オバマの退任演説は、実はきわめて「異例」のスピーチだった。その内容ではなく、こうした形で演説を行ったことが、である。

 退任する大統領が最後の演説を行うこと自体は珍しくないが、通常はホワイトハウスで行われる。グランドバレー州立大学(ミシガン州)のグリーブス・ホイットニー教授によれば、過去にそれ以外の形式で退任演説を行った大統領は9人だけだとUSAトゥデーは報じる。それも、書簡やテレビ演説だ。

 一方、フォーブスによれば、オバマ以前に国民向けの退任演説を行った大統領は12人。そのうち首都ワシントン以外では1人、米陸軍士官学校で行ったジョージ・ブッシュだけだ。いずれにせよ、地元で聴衆を集めて、選挙集会のような形式で退任演説を行った大統領はいない。

 退任演説が行われる前には、ウォールストリート・ジャーナルが演説について「退任する大統領としては異例」と形容したことに対し、オンラインマガジンのサロン・ドットコムが「ドナルド・トランプのすでに異常な大統領職務を正常に見せようとする驚くべき曲解」と批判するなど、この演説をめぐってちょっとした論争も起きていた。

 では、なぜオバマはこうした演説を行ったのか。退任演説で直接的な批判こそしなかったものの、移民排斥など、オバマとは正反対ともいえるトランプの主張に対する危機感が念頭にあったのは間違いないだろう。

 実際、トランプの側近の1人、ケリーアン・コンウェイは演説前、USAトゥデーにこう語っていた。「(オバマが)やったことの大半は次期大統領の任期中、もしかしたら最初の1カ月間で消え去ってしまうことをわかっているだろうから、(退任演説を)やるのは彼にとって素晴らしい考えだと思う」

 11日、トランプは大統領選に勝利してから初となる記者会見を開く。20日には第45代米大統領就任だ。確かにオバマの「レガシー」は消し去られてしまうのかもしれないが、だからといって「最後の抵抗」と片付けるのは早計だろう。

 オバマはまだ55歳。大統領としては最後の演説だったが、いまだ明かされていない今後の活動への最初の1歩なのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中