最新記事

科学

新聞は「科学技術」といいつつ「科学」を論じ切れていない

2017年1月6日(金)15時20分
埴岡健一(国際医療福祉大学大学院教授)※アステイオン85より転載

「技術」が「科学」を利用してきた

 ここまで長々と、技術と科学の用語の用法に日本の社会が無自覚であること、それによって技術と科学の概念の区分まであいまいになっている可能性があること、さらには対策や政策が混乱したり有効性が低下したりしてしまう懸念があることを、指摘してきた。概観すれば、「科学」という言葉とイメージが、「技術」への国民意識や資源の投入入り口に活用されてきた、「科学」が「技術」への動員のために利用されてきたと言えなくもない。

 本来、それがどのような動機・理由で生じたのか、それが科学技術の四分法間の予算配分シェアをどう動かしたのか、科学技術という言葉と概念の国際比較はどうなっているのか、上記に指摘した課題はどう解決すればいいのか、などを調べ考察し述べるべきであろうとの苦言が聞こえてきそうだが、今の筆者には手に余る作業となる。

 行政改革の側面から組織論的に省庁再編を行い担当部署が一緒になること自体は、悪いことではなかろう。予算を一元管理し重複や抜けがないようにすることも重要である。また、科学から技術までの全体マップが明確になることは、国民の間での共通理解を進めるだろう。

 だが、それで科学と技術という学問が融解して一つになるわけではないし、なるべきでもなかろう。

 現代において、「技術的科学」と「科学的技術」が不可分になってきたという事情はある。技術的科学が科学的技術にすぐに応用され、社会にインパクトを与える事例が出てきた。それで、科学と技術を一緒に科学技術と捉える必要があり、そのようになってきた部分もあるのであろう。

 であるからこそ、その融合への対処を上手にマネジメントするためにも、いま一度、振り返って、科学と技術の起源や基本的な性格が異なっていたこと、そして科学的科学、技術的科学、科学的技術、技術的技術の四つによって、ガバナンス、評価、管理などのマネジメント上の要点が大きく違うことを、いったん思い出しておくことは無益ではなかろう。これら四つに同じ原理や政策や規則を一律に押し付けるのも、得策であるとはいいがたいのではないか。

 科学や技術に関して論評する際、あるいは政策を提言したり批評したりする際に、四分法のどこを議論しているのか、時間軸のどの部分を対象としているのか。まず、そこを明確にすることを、政策立案者、専門家集団、マスコミの共通基盤とすることを、スタート点にしてはどうだろう。

埴岡健一(Kenichi Hanioka)
1959年生まれ。日経ビジネス誌副編集長、日本医療政策機構理事、東京大学医療政策人材養成講座特任准教授、東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット特任教授を経て現職。内閣府総合科学技術会議ライフイノベーション戦略協議会委員なども務めた。編著に『医療政策集中講義』(医学書院)など、訳書にチャールズ・ハンディ『もっといい会社、もっといい人生』(河出書房新社)。


※当記事は「アステイオン85」からの転載記事です。

asteionlogo200.jpg






『アステイオン85』
 特集「科学論の挑戦」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ銀行、第3四半期の債券・為替事業はコンセンサ

ワールド

ベトナム、重要インフラ投資に警察の承認義務化へ

ワールド

台湾、過去最大の防衛展示会 米企業も多数参加

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中