最新記事

リーダーシップ

優秀なチームの「失敗」を止める方法

2017年1月5日(木)20時10分
デレク・ニューベリー、マリオ・ムサ、マデリン・ボイヤー ※編集・企画:情報工場

カルチャーの代償としての2種類の「ズレ」

 こうしたことが起こる原因を探るためには、私たちがこれまで携わってきた社会科学研究の成果を持ち出さねばなるまい。具体的には、最近まで埃をかぶっていた古い概念、「カルチャー」だ。この概念は、ビジネスの世界に有用なものとして息を吹き返しつつあるのだ。

 チームのカルチャーというのは、何かを成し遂げたり、問題を解決するためのルールが集まってできている。人類学者によれば「ヒトを他の種と分けるのは、カルチャー(文化)をつくり出す能力があるかどうかである」そうだ。

 カルチャーがあることで、私たちは他者と協力関係を結んで複雑なタスクをスピーディーかつ効率的に片づけることができる。集団にカルチャーができれば、場面場面でいちいちどうするかを話し合わずに済む。「こういうときにはこうすればいい」といった暗黙のルールが共有されるからだ。

 このように、カルチャーは物事の処理コストを下げる働きをする。しかし、効率が上がるということには代償がつきまとう。すなわち、ルールそのものを自明のものとして誰も注意を払わなくなる。そうすると、次に挙げる2種類の「ズレ」が生じがちなのだ。

(1)チームと外部環境の「ズレ」

 環境が変化すると、それまでうまくいっていたやり方が通用しなくなることがある。フォルクスワーゲンは以前から閉鎖的な組織カルチャーで知られていた。平常時には、そのカルチャーは迅速な意思決定を助ける働きをした。その結果、会社は成長していった。だが、社会全体がオープンな相互のつながりを重視するようになると、この閉鎖的なカルチャーは大きな弱点になる。

(2)個人とチームの「ズレ」

 私たちは皆、カルチャーが異なる複数の集団に属している。それはたとえば異なる組織のチームであったり、家族という名のチームであったりする。これらの別々のカルチャーをもつ複数の集団は、個人を違う方向にバラバラに引っ張る。しかも私たちはそのことに気づいていないことが多い。

 冒頭のウォリアーズのケースでは、もしかしたら一部の選手たちは、レギュラーシーズンのチームの目標よりも、何か別のことが気にかかっていたのかもしれない。たとえば先々のことを考えて自らの健康状態をキープすることなど。ビジネスでいうと、家庭や、同時に行っている他の仕事、もしくは将来のキャリアチェンジなどが気になって、主チームへの参加意欲が薄れる、といったケースだ。

(1)(2)いずれのタイプの「ズレ」が生じても、チームのパフォーマンスは低下する。時には、低下の理由をチームが把握できないこともある。これは良くないことではあるが、そんな状態を逆手にとることも可能だ。そうなった理由を注意深く反省し、チームのカルチャーを目標達成に役立つものに変えていくことができるのだ。

【参考記事】成長するには「失敗」に必要以上の注意を向けないこと

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ

ワールド

IEA、石油供給不足なら備蓄放出の用意 OPEC「

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中