最新記事

中東和平

イスラエルの入植に非難決議──オバマが最後に鉄槌を下した理由

2016年12月26日(月)18時20分
コラム・リンチ、ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン

ヨルダン川西岸の入植地を歩くイスラエル人 Amir Cohen-REUTERS

<イスラエルが占領地で進める入植活動の停止を求める国連安保理決議が、アメリカの棄権により成立。イスラエルのネタニヤフ政権は烈火のごとく怒り、親イスラエルを公言するトランプ政権の発足後に巻き返しを図る構え>

 オバマ米政権は23日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸やガザ地区、東エルサレムなどで続く入植活動の停止を求める国連安全保理の決議案に、拒否権を行使する代わりに棄権した。イスラエルを非難する決議にアメリカが賛同するのは異例だ。ドナルド・トランプ次期米大統領が直前まで、拒否権を発動すべきだとツイッターで現職大統領に揺さぶりをかけ続けたのも、異様な光景だった。

【参考記事】米国がイスラエルの右翼と一体化する日


 決議は、安保理15か国のうち14カ国が賛成し、アメリカの棄権により採択された。トランプは採択後も国連とオバマ政権に対する批判を続け、「(自分が大統領に就任する)1月20日以降は、国連も変わる」とツイッターに投稿した。

【参考記事】自分が大統領にならなければイスラエルは破壊される──トランプ


 オバマ政権がイスラエル非難決議案を事実上容認したのは初めて。サマンサ・パワー米国連大使は、レーガン政権を含めた過去の共和・民主党政権でも中東和平実現を優先してきた経緯があることを引き合いに、現政権が棄権を選んだ正当性を主張した。

「1967年以降イスラエルが占領した地域で入植活動を進めることは、イスラエルの安全保障を損ない、(パレスチナとの)2国家共存の実現を危機にさらし、平和と安全に向けた期待を失わせる」と、パワーは採決後に安保理で語った。

ネタニヤフに大打撃

 ホワイトハウスは、入植活動が2国家共存の実現に及ぼすリスクを強調した。ベン・ローズ大統領次席補佐官(国家安全保障担当)は会見で、最近の入植活動の「加速傾向」は「2国家解決の実現に向けた土台を損なう」と述べた。「良心に照らしても、アメリカが決議案に拒否権を行使することはできなかった」

 決議案はパレスチナが起草したものをエジプトが取りまとめた。マレーシア、ニュージーランド、セネガル、ベネズエラも共同提案国となり、「2国家共存の実現を危険にさらす」占領地での入植活動を、「即座かつ完全に中止する」よう求める内容だ。東エルサレムなどの入植地の建設には「法的な正当性がなく、国際法の重大な違反」と非難した。

【参考記事】ヨルダン川西岸に入植するアメリカ人


 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって、非難決議の採択は大打撃だ。採決に先立ち、ネタニヤフは唯一のアラブ諸国の非常任理事国であるエジプトに対して、22日に予定されていた採決を延期するよう圧力をかけた。イスラエル政府関係者は、トランプの政権移行チームにも働きかけ、オバマ政権に拒否権を行使させるよう迫った。

「今日は安保理にとって暗黒の日だ。たった今採択された決議案は、偽善の極みだ」と、イスラエルのダニー・ダノン国連大使は言った。決議案に賛成したことで、安保理は事実上(中東和平の)進展と交渉に反対票を投じたと主張。「反イスラエルの国連決議として、長く恥ずべきリストに加わった」と批判した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中