最新記事

パレスチナ

ヨルダン川西岸に入植するアメリカ人

入植者の15%を占める6万人のユダヤ系米国人が2国家共存という和平の妨げに

2015年9月30日(水)17時00分
ジャック・ムーア

占領地 ヨルダン川西岸の入植地で演説するイスラエルのネタニヤフ首相 Ronen Zvulun-REUTERS

 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でイスラエルによる入植が拡大していることはよく伝えられる。だが入植者たちの中にアメリカ人が相当数いることはあまり知られていないだろう。最新の調査で、その割合が15%であることが分かった。

 英オックスフォード大学の講師サラ・ヤエル・ハーシュホーンによれば、西岸には約40万人の入植者が住んでいるが、このうち6万人ほどがユダヤ系アメリカ人だという。西岸に暮らすアメリカ国籍の住人の数は、これまで知られていなかった。

 その数は「入植者人口における割合としても、イスラエルに移住したユダヤ系アメリカ人の割合としても際立って多い」と、ハーシュホーンはエルサレムで開催された会議で指摘した。

 これまでの統計がないために、この6万人という数字が以前と比べて目立って多いのか少ないのかは分からない。それでも、93年にオスロ合意が結ばれた頃に11万人前後だった入植者数が、今では264%増の約40万人に達していることははっきりしている。

大統領選候補も西岸を訪問

 イスラエルの市民団体ピース・ナウは、今回明らかになった数字によって西岸の入植活動はイスラエル・パレスチナ間だけでなく「国際的な問題」だと指摘した。「オバマ政権は入植の拡大について反対を唱えているが、残念ながら約6万人のアメリカ人が2国家共存という和平案への妨げとなっている」と、ピース・ナウのアナット・ベン・ナンは言う。

 アメリカのキリスト教徒の保守派の一部は、入植地の学校やシナゴーグ(ユダヤ教会堂)などに寄付することによって、入植活動を支援している。しかも、こうした寄付による税控除という甘い汁も吸っている。

 06年には、テキサス州サンアントニオのキリスト教福音派の牧師ジョン・ヘイギーが、イスラエルを支持するのは「神の外交政策」だからだと主張した。

 来年の米大統領選の候補者たちも、親イスラエルをアピールして選挙資金の調達につなげるために西岸を訪問している。共和党の指名候補に名乗りを上げているマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事(福音派)は、先月中旬に入植地を訪れた。

学歴の高いリベラル派も

 しかしハーシュホーンによれば、イスラエルに移住するアメリカ人の多くが右翼的あるいはユダヤ教超正統派の思想を持っていると思われているが、現実はそうではないという。

「彼らは若くて学歴が高い。アメリカ人入植者のうち約10%が博士号を取得している。保守的ではあるが、必ずしも正統派の宗教観を持っているわけではない」と、彼女はイスラエルのハーレツ紙に語った。「中には60~70年代のアメリカで左派の社会主義運動に積極的に加わり、選挙では民主党に投票していた人たちもいる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中