最新記事

アレッポ制圧

世界が放置したアサドの無差別殺戮、拷問、レイプ

2016年12月19日(月)20時00分
ルラ・ジュブリアル

 シリアの民主化運動が、最初は平和的なデモだったことを忘れてはならない。数万人の住民が、社会的公正と政治改革、自由と民主主義を求めて行進したのだ。

 それに対し、アサドは国家の治安機構ごと解き放った。平和的な抗議は危機に転じ、荒っぽい内戦になった。民主化活動家は逮捕され、拷問され、大量に殺害された。一方では、正真正銘のならず者たるイスラム過激派が国家刑務所から野に放たれ、アルカイダやISIS(自称イスラム国)に吸収されていった。アサド政権は自らを対テロ戦争の軍と位置付け、イスラム過激派やISISに代わる唯一の選択肢として味方を取り込んだ。

webw161219-aleppo03.jpg
アレッポの病院で避難を待つ怪我人たち Abdalrhman Ismail-REUTERS

 2011年、シリア内戦の発端となったのは、ダルア市出身のハムザ・アルハティーブという13歳の少年の死だった。ハムザは拘束され、警察の拷問を受け、弾丸3発で処刑された。切り刻まれた遺体の写真はネットで拡散され、ダルアからアレッポまで大規模な反政府デモが立ち上がった。だが、だが、無実の少年に対する残忍な拷問、切断、殺人という人道に対するこれ以上ない侮辱に対する人々の怒りに対しても、アサドは政府軍の容赦ない力をぶつけた。凄まじい暴力をもって自らの国民を5年以上、殺し続けたのだ。

 アサドの攻撃は、彼に抵抗する最後の一人、あるいは最後のグループまで根絶やしにしない限り止まらないだろう。アサドはいくら殺しても、軍事作戦を止めようとしない。ロシア軍の助けでアレッポの住民を一人残らず始末しようとしている。

自分の首を絞める国際社会

 アメリカの次期大統領がドナルド・トランプに決まったことも問題を一層複雑にする。アサドは今、ロシアがあらゆる国際法や慣例に反してアレッポ東部を焼き尽くすのを黙認している。旧ユーゴスラビアやルワンダの虐殺で行われた「人道に対する罪」に対する反省として、国連は1999年、「武力紛争下における文民保護」を決議した。それにも関らず、国際社会はその責任を積極的に無視したのである。ロシアが好きだと公言し人権もお構いなしのトランプの参入で、事態はどう変わるのだろう。

 シリアの民主化運動を支持し育成することに失敗したのは悲劇だ。だがそれに続いた内戦を終わらせるために有効な手段を打たず、アサドに戦争のルールを守らせることさえできなかったのは、また大きな別次元の倫理観の崩壊を示している。

 アサドの勝利によって、国際社会はいずれ自分の首を絞められることになるだろう。われわれの世代は昔を振り返り、なぜ人はナチスの台頭を許し得たのだろうと疑問に思う。その答えは、シリアにある。そして歴史の審判は、決して人類に優しくはないだろう。

From Foreign Policy Magazine


 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官「一連の利下げ可能」、雇用悪化が9月大幅

ワールド

中国、EUの2銀行に対抗措置 対ロ制裁への報復

ワールド

米ロ会談不調なら対ロ制裁強化の可能性─米財務長官=

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=上昇、S&P500・ナスダ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が教える「長女症候群」からの抜け出し方
  • 3
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ「衝撃の物体」にSNS震撼、13歳の娘は答えを知っていた
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    マスクの7年越しの夢...テスラ初の「近未来ダイナー…
  • 7
    トランプ「首都に州兵を投入する!」...ワシントンD.…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    トランプがウクライナを置き去りに推進する和平案...…
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 7
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中