最新記事

トルコ情勢

トルコはテロの連鎖を断ち切れるのか

2016年12月15日(木)16時50分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

テロをいかに食い止めるか

 トルコにおけるテロは、表1にあるように2015年6月からの1年半で急増している。この背景には、2015年7月にPKKが2013年3月からトルコ政府と進めていた停戦交渉を破棄したこと、また、トルコ政府が「イスラーム国(IS)」に対して空爆を開始したことがあげられる。ISに関しては、基本的にトルコ人のISメンバーがトルコ人とクルド人の分断を狙ってクルド人を狙ったテロ、もしくは外国人観光客を狙ったテロが多い。

【参考記事】トルコ政府とPKKとの抗争における「村の守護者」の役割

 しかし、今年6月末に起きたイスタンブルのアタテュルク国際空港でのテロのように、トルコのISメンバーではなく、外国人メンバーによる無差別テロにも警戒が必要である。このように、トルコ政府は対テロという観点では、現在、TAK、IS、トルコのISという3つの組織に対して最大限の警戒態勢を敷いている。

 ボーダフォン・スタジアムでのテロを受け、与党の公正発展党、第2政党の共和人民党、第3政党の民族主義者行動党の間で対テロ対策に関する党首会談が12月14日に実施され、3党は対テロに関しては一致団結していくことを確認した。また、同日、エルドアン大統領が「全てのテロ組織に対する国民の動員」を宣言した。

 これは、PKK/TAK、IS、7月15日のクーデタ未遂に深く関与していたと言われているギュレン運動、そして極左組織のDHKP-Cなどのテロは治安組織だけでは防ぎきれないので、情報提供など、国民1人1人が積極的に対テロ戦争に協力するという内容であった。このように、軍、警察、国家情報局(MİT)、そして国民が連帯してテロを防いでいくことが確認された。

【参考記事】トルコという難民の「ダム」は決壊するのか

 テロの頻発は観光業や為替などにも大きな影響を与える。トルコとPKKの抗争は最近激しさを増しており、ISとシリアのクルド勢力の駆逐を目的としたトルコ軍のシリア越境作戦(ユーフラテスの盾作戦)も継続している。そのため、ISとTAKは今後もトルコでテロを実施するだろう。そうしたテロを国家一丸となっていかに未然に防ぐことができるのか、トルコのテロ対策は正念場を迎えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済指標「ハト派寄り」、利下げの根拠強まる=ミラ

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の

ワールド

ロ、25年に滑空弾12万発製造か 射程400キロ延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中