最新記事

トルコ

トルコという難民の「ダム」は決壊するのか

2016年11月30日(水)17時30分
望月優大

Umit Bektas-REUTERS

<今、トルコで起きていること、をここで改めて整理してみよう。それを考えることは、世界で起きている変化の流れを理解し、私たちの暮らしや価値観が拠って立つ基盤がどのようなものなのかを改めて考える機会となる>

 いまトルコについて考えることは本質的なことである。

 トルコについて考える経験を通じて、自由民主主義を奉じる先進諸国に生きる人々は、自分たちの暮らしがどんな基盤に拠って立っているのかを理解する。それはひどく脆弱な基盤であり、少しの変化で動揺してしまうほどのものだ。

 そして、いままさにその基盤が危機にさらされようとしている。

 直接的に言えば、今年の3月に結ばれたEU-トルコ間での合意によってトルコ経由でのEU諸国への難民流入が大きく抑制されていたのだが、その合意自体が現在危機に瀕している。

Migrant crisis: Turkey threatens EU with new surge - BBC News
トルコ大統領「移民に国境を開放」、加盟交渉渋るEUに脅し | AFPBB News

 この記事ではその危機について書いていく。

 1.「EU-トルコ間合意」の成立と動揺
 2. 難民の「ダム」としてのトルコ
 3. 世界はトルコに何を求めるのか

 具体的にはこういうことが起きている。

1. 「EU-トルコ間合意」の成立と動揺

 時系列順に経緯を追っていく。

 ・2015年、シリア→トルコ→ギリシャを経てドイツにまで至る「バルカンルート」を通って中東から大量の難民がヨーロッパに押し寄せた

 ・その結果、EU諸国はドイツを中心とした受入肯定派とハンガリーなど東欧諸国を中心とした反対派に分断された

 ・しかし、大量の難民受入後にEU諸国で発生したいくつかのテロ事件やそれに伴う極右勢力の伸張に伴い、ドイツにおいても、政権側から何らかの手を打たなければ国内的にもたない状況が現出した

 ・関連する重要なスケジュールについて確認する。2015年9月6日にハンガリーとオーストリアで足止めを受けていた大量の難民がドイツ南部のミュンヘンに到着し、同月11日にメルケルが「難民に対する上限はない」と発言。その後、同年11月13日にパリ同時テロ事件が発生し、12月31日にケルンでの暴行略奪事件が発生した。それぞれの事件の容疑者に難民申請者が含まれていたことが世論の硬化を招いた

 ・こういった情勢を受けて、EUはドイツ主導でトルコとの外交的合意を成立させる。2016年3月18日のことだ。そこではこういった取引がなされた

 ・まずはトルコからEUへのオファー。トルコからギリシャ(EU及び域内移動の自由を認めるシェンゲン協定加盟国)に入って滞留している難民のトルコへの送還を認め、加えてトルコ・ギリシャ間の国境警備の強化を行う

 ・次にEUからトルコへのオファー。トルコ国内の難民支援にかかる費用を支援する、トルコからEUにシリア難民を一定数再定住させる、トルコ国民がEU渡航する際のビザを免除する、トルコのEU加盟交渉を加速させる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中