最新記事

投資

ビッグデータの時代、投資情報は少ないほどいい

2016年11月30日(水)19時30分
イアン・アリソン

peterhowell-iStock.

<投資分析に利用できるデータが爆発的に増える今、投資家はどうやってそれを有効活用しているのか>

 資産運用のプロとして25年間の経験を積み、現在は投資データ会社「クリアーマクロ」を率いるマイク・シムコックCEOによると、会社を設立したのは氾濫する大量のデータに溺れていた投資家を救うためだった。

 当時はデータの情報源が爆発的に増え、その多くが従来よりタイムリーな情報や影響力のあるシグナルを投資家向けに提供していた。

【参考記事】カルパースのCSR投資はリターンを犠牲にした無責任投資

 だがシムコックに言わせると、「ビッグデータ革命」は既存の問題を一層悪化させた。「情報収集の担当者やポートフォリオを管理するマネジャーの立場からすれば、伝統的なデータの分析で手いっぱいだったのに、今では衛星からグーグルトレンドなどあらゆる情報が降ってくる」

 情報技術の発達によって、投資分析がヘッジファンドや商品取引仲介業者の特権ではなくなりつつある。過去の株価データを用いて検証を行う「バックテスト」や統計的な情報収集も可能だし、効果的に情報をビジュアル化することもできる。

投資のウィキぺディア

 クリアーマクロ社は「投資戦略のウィキペディア」を構築中だ。これによって誰でも、戦略的でシステマティックなポートフォリオ戦略を練ることができるようになる。

 情報は少ない方が良いとシムコックは提案する。「我々はネットでデータをかき集めているわけではない。各分野でトップの経営者が決断を下すときに利用しているであろう情報を提供している」

【参考記事】日本に観光に来た外国人がどこで何をしているか、ビッグデータが明かします

 シムコックによれば、ヘッジファンドがビッグデータから利用する情報は、取引頻度が高く、短期間で売買する投資向けの情報に絞られる傾向がある。

「ポートフォリオの調整はかなり難しい。多くの投資家が損している。資産配分の理論をよく理解していなかったり、偽のデータに引っ掛かったりして、資産を大きなリスクにさらしている」

【参考記事】世紀のリーク「パナマ文書」が暴く権力者の資産運用、そして犯罪

 シムコックはさらに続ける。「各種手数料を差し引けば、積極的なポートフォリオ運用は敗者のゲームだ。人間の力で損失を回避するのは難しい。だが現実には、投資マネジャーの大多数がそれを行っている。難しいと知っていて、あえてその事実を無視している。誰もが自分の見方は正しいと信じたいからだ」

 それでも投資業界は、データ主導で自動化された研究や、投資可能な戦略を重視する方向へと急速に舵を切っている。恣意的に売買をするのではなく、ルールに則った投資をするファンドが増えているのだという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米農務省、5カ月で職員2割が離職 トランプ政権の人

ビジネス

米ウーバーとリフト、中国百度と自動運転タクシー試験

ワールド

米政府、ブラウン大学の安全対策再検討へ 銃乱射事件

ビジネス

元の対ドル基準値、1年3カ月ぶり高水準に 元高警戒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中