最新記事

北朝鮮

中朝「友好の橋」に閑古鳥 中国チェック厳格化で北朝鮮出稼ぎ減少

2016年11月30日(水)10時25分

 11月29日、北朝鮮との主要な国境検問所がある「中朝友誼橋」は、厳しい制裁下で孤立する北朝鮮との主な貿易の玄関口となっているが、最近、橋がいつになく閑散としていると、橋のある中国丹東市の貿易業者やビジネスマンらは口をそろえる。写真は、北京の北朝鮮レストランで働く女性たち。2012年6月撮影(2016年 ロイター/David Gray)

寒さの厳しいある朝、労働仲介業者は、自分を乗せた自家用バスが北朝鮮との主要な国境検問所がある「中朝友誼橋」を渡るのを待っている。中国の工場や飲食店での仕事を仲介するため、北朝鮮の出稼ぎ労働者を迎えに行こうとしているのだ。

中国遼寧省丹東市を通る単一車線のこの橋は、厳しい制裁下で孤立する北朝鮮との主な貿易の玄関口となっている。最近、橋がいつになく閑散としていると、この人口250万都市の貿易業者やビジネスマンらは口をそろえる。

「1カ月に1度以上は、工場や飲食店で働かせるために少なくとも40─50人の北朝鮮人を連れてきていたが、今ではそれほど頻繁ではなくなっている」と、仲介業者のLiuさんは語る。「中国はもう彼らに働きにきてほしくないのだと思う」という。

遼寧社会科学院の呂超氏は、実際に最近は出稼ぎ労働者の数が減少していると指摘。中国はチェックを厳しくしたり手続きを難しくしたりすることで数を減らしていると指摘。「北朝鮮に対し、新たにより厳しい制裁が科されるなら、同国から中国にやってくる労働者の数はさらに減るのは間違いない」と同氏は語る。

海外で働く北朝鮮人の推計にはかなり差があるが、韓国統一研究院の調査によると、その数は約15万人。主な出稼ぎ先は中国とロシアで、稼いだ金の大半は、公式な北朝鮮のチャネルを通じて本国に送られる。その総額は年間9億ドル(約1007億9000万円)にも上るとみられる。

北朝鮮からの労働者について、中国外務省の耿爽報道官は28日、「言及されているような状況については関知していない」と語った。

減少しているのは労働者の流入だけではない。丹東市の貿易業者や企業経営者への取材で明らかとなったのは、中国が北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止しようとするなか、北朝鮮との通商がかつてないほど圧迫されている現状だ。

耿爽報道官は先週、国連制裁に関する中国の立場は、「北朝鮮国民の生活や人道的ニーズに悪影響を及ぼすべきではない」とするものだと語っていた。

<崩壊を回避>

中国は長い間、北朝鮮にとっての命綱となってきた。中国政府としては主に、北朝鮮崩壊を回避したいという算段がある。そのためには、在韓米軍2万8500人を排除したい考えだ。

中国は丹東市から北朝鮮へさまざまな製品を輸出しており、そのなかには鴨緑江の下を通るパイプラインを通じて送られる石油も含まれている。一方、外貨をひどく必要としている北朝鮮は、丹東市や他の中国の港から主に石炭を輸出している。米当局者らによると、北朝鮮から石炭を購入しているのは中国だけだ。

しかし北朝鮮が4度目の核実験を実施後、中国は3月に制裁を強化する国連安保理決議に賛成し、同決議は全会一致で採択された。これにより、北朝鮮からの石炭は例外を除き輸入禁止となった。

外交官らが25日語ったところによると、中国は、さらに北朝鮮の石炭輸出を制限する新たな制裁決議に合意するとみられる。

中国はドナルド・トランプ次期米大統領から一段の圧力を受ける可能性があり、よりタカ派的な同氏の国家安全保障チームが北朝鮮への圧力を強めるよう要請してくる恐れがある。中国ほど北朝鮮に対して影響力をもつ国は他にないからだ。

北朝鮮への圧力を強めるには「中朝友誼橋」が要である。中朝貿易の約8割は、この橋を通って行われている。

<外貨稼ぎ>

23日の午前半ば、丹東市の主なトラック駐車場はほぼガラ空きだった。橋を渡ろうとトラックが何時間も列をつくっていたほんの数カ月前とは大違いだ。

「こんなことは初めてだ」と、北朝鮮の会社にトラクターやトラックを販売するWangさんは言う。

国連による制裁は北朝鮮の外貨獲得を阻止する狙いがあるが、貿易全般を委縮させる効果が出ているという。

「禁止されている製品を輸出しているわけではないが、制裁は北朝鮮の商売相手を直撃しており、彼らはかつてのようにカネを使わなくなった」とWangさん。「まるで自分が罰を受けているようだ」

中朝国境沿いの通商はここ数カ月、減速していると、延辺大学経済管理学院の責任者、Li Zhonglin氏は指摘。「合法的な取引ですら打撃を受けており、避けれられない事態となっている」と同氏は述べた。現在のような状況では企業は慎重になり、緊張が緩和するのを期待して待ちの姿勢となるからだ。

また、米司法省が9月に丹東市の貿易会社「鴻祥実業発展有限公司」と経営者の馬暁紅氏に対し、北朝鮮の核兵器プログラムに加担したとして訴追、制裁を科したことも貿易業者らを震え上がらせている。

「(馬氏は)官僚であり、丹東市で最も裕福な女性と言われていた。彼女が処罰されるなら、われわれの誰ひとりとして安全ではない」と、ある朝鮮系中国人の貿易業者は語った。

<消費者製品への欲求>

その一方で、消費者向け製品に対する北朝鮮の欲求は衰えていない。

北朝鮮の貿易業者は毎朝、丹東市の電子機器の卸売市場に集まる。そこで、中古のデスクトップコンピューターから最新の腕時計型フィットネス端末まであらゆる製品を買いあさる。そして、それら製品を橋を渡って持ち帰り、北朝鮮政府の統制が緩むなか成長を続ける「闇市場」で売るのだ。

「彼ら(北朝鮮の貿易業者)は何でも買っていく」と、中国と北朝鮮の国旗を飾ったカウンターでイヤホンと自撮り棒を売っている業者は話す。「中国で手に入るものは何でも、適正価格を支払えば北朝鮮でも手に入れられる」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



Sue-Lin Wong

[丹東(中国) 29日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中