最新記事

金融

想定外なトランプ相場 ディープラーニング活用のAIファンドも混乱 

2016年11月25日(金)10時21分

 11月23日、金融市場で人工知能を活用したファンドが増えており、膨大な過去データやディープラーニングを使った株価予測への期待は高いが、今回の「トランプ相場」における成績はファンドによってまちまちだ。東証で10日撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

 金融市場でAI(人工知能)を活用したファンドが増えている。膨大な過去データやディープラーニング(深層学習)を使った株価予測への期待は高い。ただ、今回の「トランプ相場」における成績はファンドによってまちまち。人間も振り回される乱高下相場では、AIも例外ではなかったようだ。

これで1勝1敗

「最初の試練だった」──。シンプレクス・アセット・マネジメントの野村至紀ディレクターは落胆の色を隠さない。日本時間9日、米大統領選でトランプ氏の優勢が明らかになると、日経平均<.N225>は一時1000円を超える急落。前日に買いシグナルを出していた野村氏が手掛けるAIファンドは損失を被った。

 翌10日、損失はさらに拡大する。9日の値動きを取り込んだ野村氏のAIファンドは売りシグナルを出したが、非情にも日経平均は今年最大の上昇となる1029円高と急反騰。2日間の損失は2%強となった。

 野村氏のAIファンドはTOPIX先物の過去一定期間の値動きを学習し、約140兆通りの組み合わせから最適な解を導き出す。ただ、今回の米大統領選後の値動きは予測できなかった。

 突発的なイベントに対し、同氏のファンドが必ずしも負けているわけではない。多くの投資家が予想していなかった今年6月のブレグジット(英国国民投票での欧州連合離脱決定)。野村氏のAIファンドは事前に売りシグナルを出し、結果、1日で3%を超すリターンを確保した。

「これで1勝1敗だ。米大統領選ではうまくワークしなかったが、今後はこのような荒い値動きへの対応力を高めるように、AIプログラムの改善に取り込んでいきたい」と、野村氏は意欲をみせる。

「ブラックボックス」の面も

 今年3月末、三菱UFJ信託銀行が立ち上げたAIファンドは、高配当の現物株を保有する一方、AIモデルでヘッジ比率を算出し、配当利回り以上の安定的なパフォーマンスを目指している。

 今回の米大統領選に向けては、AIモデルが前日にフルヘッジのシグナルを出し、「米大統領選当日の日本株の急落による損失は回避できた」と岡本訓幸チーフファンドマネージャーはいう。

 もっとも同ファンドでは月の約半分でフルヘッジしているといい、米大統領選でのトランプ氏勝利を予見してヘッジ比率を高めたわけではない。加えて「事後的には解釈できることもあるが、なぜAIモデルがフルヘッジの指示を出したのか正確に把握することは難しい」(岡本氏)と述べる。

 三菱UFJ信託銀行のAIモデルにはディープラーニング(深層学習)が使われている。人間の脳をモデル化したニューラルネットワークの規模を拡大し、膨大なデータから有用な規則や判断基準などを抽出するシステムだ。

 東京大学・工学系研究科教授の和泉潔氏によれば、ディープラーニングに対し、「どのデータが作用したのかを把握できるケースもあるが、わからない場合も多い。特に複雑な要素が絡み合う金融市場の場合、AIが最適とはじき出した組み合わせに対して合理的な説明がしづらい」という。

 それゆえ、顧客や上司に「説明責任」がある運用担当者は、AIファンドを敬遠することも少なくない。国内生保の運用担当者は「結果的にはパフォーマンスが良いのかもしれないが、現時点ではAIファンドがなぜその投資戦略を採用したのかという理由がわからないと資金を出す気にはなれない」と漏らす。

安定相場で力を発揮

 AIファンドがその実力を発揮するのは、長期のパフォーマンスや安定した相場においてだ。

 2010年に発表されたR.シューメイカー氏らの研究発表によれば、2005年10月26日─11月28日の5週間において、S&P500銘柄のファンドの取引結果を調べたところ、AIが運用するファンドがプラス8.5%となり、人が手掛けるファンドのパフォーマンスを上回ってトップになったという。

 シンプレクスのAIファンドでも過去25年間において、月間の勝率は6割。平均リターンは2%だ。一方で負けた月の平均損失は1%程度。年率ベースでは7%のリターンを目標に掲げている。

 三菱UFJ信託のAIファンドでも2008年─15年までの全年度でプラスとなり、年度別の平均リターンは8.4%だ。

「AI運用は、例えると飛行機におけるオートパイロット」と東大の和泉氏は指摘する。上空での安定的な飛行、すなわち金融市場においてボラティリティの小さい凪(なぎ)の状態では大量データの取り込みやスピードの面でAIが勝るが、「いざ嵐が来たり、離着陸のような局面ではまだ人間にはかなわない」という。

 とはいえ、今回の「トランプ相場」の大変動を人間が読み切ったわけではない。より予測精度の高い運用手法は何か──。将棋や碁のように、AIと人間が切磋琢磨していくことが期待されている。

 (杉山容俊 編集:伊賀大記)

[東京 24日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国工業部門利益、1─4月は4.3%増で横ばい 4

ワールド

米ルイジアナ州、経口中絶薬2種を規制薬物に指定 国

ワールド

仏大統領、24年ぶりドイツ国賓訪問 「欧州は重要な

ワールド

バングラとインドにサイクロン上陸、数百万人に停電被
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 9

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中