最新記事

医療

がん治療にまた新たな希望 免疫療法で製薬各社の競争加速

2016年10月18日(火)18時43分

 肺がんは、がんの中でも最も死者数が多く、年間の死亡者数は160万人に達する。今後の免疫療法薬の処方例でも肺がんが圧倒的に大きなシェアを占めることになることが見込まれる。もっとも免疫療法は、これ以外にも黒色腫、ホジキンリンパ腫に加え、胆嚢・腎臓・頭頸部のがんにも用いられている。

 肺がんに対する単剤療法においてはメルクが市場を席巻しようとしているが、医師たちは次の段階に注目している。PD-L1レベルの低い残りの患者に関しては、療法の併用が今後の道だろうというコンセンサスが形成されつつある。

 仏グスタフ・ルッシー研究所のジャンシャルル・ソリア医学教授は、多剤併用療法市場における優位をめぐる今後の競争について、「もちろん、レースは始まっている」と語る。

 研究者たちは、理論上は、他の薬を追加することによって免疫系にがん細胞を反撃させ、もっと多くの人々に治療効果をもたらすことは可能だと考えている。

 これまでのところ、最大の関心が注がれているのは2種類の免疫療法を組み合わせることだが、通常はそれぞれの薬に年10万ドル─15万ドルの費用がかかるため、コスト面での問題が浮上してきた。

 多剤併用療法という戦略によって、アストラゼネカにもチャンスが生まれてきた。同社はこれまで他社の後塵を拝してきたが、来年早々に臨床試験の結果が報告される混合薬によって、ライバルを一気に追い越したいと願っている。

 ブリストルも同じアイデアを追求しているが、こちらの2剤併用免疫療法の臨床試験の結果は2018年まで出ないと予想されている。

 ところが、ESMOの総会では、もう1つ別のアプローチ、つまり免疫療法と化学療法をうまく併用させる可能性も浮上してきた。

 過去には多くの科学者がこのアイデアに懐疑的であり、現在でも、患者が長期的な反応を示すかどうかという点で疑問が残っているが、ESMOで紹介された中期研究から得られたポジティブなデータからすれば、このコンセプトには現実的な見込みがあるようだ。ロシュ、メルク両社も熱意を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中