最新記事

英EU離脱

「ハードブレグジット」は大きな間違い?

2016年10月19日(水)11時00分
ジョシュア・キーティング

Darren Staples-REUTERS

<EUからの移民も規制も完全排除して経済を後回しにする、強硬(ハード)路線をイギリス国民は本当に望んでいるのか>(写真:来年3月末までにEU離脱交渉を始める考えを表明したメイ首相)

 ブレグジット(イギリスのEU離脱)について先行きがずっと不透明だったイギリスが、ようやく展望を見いだしたようだ。

 メイ首相は先週、来年3月末までにEU側との離脱交渉を開始すると明言。イギリスとEUの新たな経済的・政治的関係についての話し合いだが、交渉期間は原則2年と決まっている。交渉がまとまろうが決裂しようが19年のEU離脱は変わらない。

 大きな課題となるのはイギリスが今後、EUとどんな関係を望むかだ。大半のイギリス人にとってEU加盟国としてのメリットは、EU市場で英企業のビジネス展開が容易なこと。デメリットはEU加盟諸国から労働者が流入すること、そして英国内の規定にまでEU本部から口出しされることだ。

【参考記事】難民を締め出したハンガリーに「EUから出て行け」

 ジョンソン外相をはじめとするブレグジット支持者は、離脱後もイギリスはEUの恩恵を享受できると有権者に断言している。だがEUの各国政府は、何の義務も果たさずに特典だけを利用しようとするのは虫のいい話だと見ている。そのため、英政府はEUとの交渉の中で何を優先していくのか見極める必要がある。

 メイ率いる保守党は、「ハードブレグジット」と「ソフトブレグジット」と呼ばれる2つのシナリオのどちらを選ぶかで二分している。ソフト路線の優先事項は、EU圏との貿易とEU市場への参入だ。代わりに移民に関してEUからの指示を一部受け入れ、EUの規定も大幅に維持する。非加盟国のスイスやノルウェーも同様の取り決めを結んでいる。

経済的影響は説明されず

 一方のハード路線は、EUとは完全に手を切り、イギリスの国境管理と国内規定に関して一切干渉させないというものだ。ただしこの路線を貫くと、EU圏内での無関税貿易という特権を失うことになる(現在、イギリスの輸出の約4割をEU向けが占めている)。

 ハード路線を取れば、ロンドンが金融の中心地としての地位を失う可能性も高い。ロンドンを拠点とする金融機関が従来どおりEU圏内で自由にサービスを提供できなくなるため、欧州での本拠地をイギリスから他国へと移す動きが加速しかねない。既に日本の金融機関1社が動きだしているとの報道もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中