最新記事

金融政策

金融政策の限界が露呈、新たな現実に古い道具

2016年10月7日(金)10時53分

10月5日、主要中央銀行の超低金利政策によって金利は無きに等しくなったにもかわらず、企業と家計の借り入れは一向に増えない。写真は日銀本店で記者会見する日銀の黒田総裁。4月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

 主要中央銀行の超低金利政策によって金利は無きに等しくなったにもかわらず、企業と家計の借り入れは一向に増えない。経済のサービス化、技術革新、高齢化といった新たな現実を前に、従来の金融政策は壁に直面している。

 日本とユーロ圏はいずれも貸し出しの伸び率が約2%で低迷している。つまり金融政策の波及メカニズムは少なくとも部分的に壊れており、日銀と欧州中央銀行(ECB)は数兆ドルの資産を購入しても、思うような効果を得られないということだ。

 インフレと成長に対する中銀の影響力が低下している様子は、現代の金融政策の土台であるインフレ・ターゲティングの有効性に疑問を投げかけている。

 今週ワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)年次総会では、こうした新たな現実の持つ意味が主要議題の1つとなりそうだ。中銀は、金融政策に負荷が掛かり過ぎているとして政府に行動を求め続けるだろう。

 先進国で見られるサービス業主体の経済成長への移行、技術革新、高齢化といった変化はどれも、企業と家計の投資を抑制し、貯蓄を増やし、成長とインフレ率を押し下げる要因になる。

パラダイムシフト

 ECB理事会メンバーのヤズベツ・スロベニア中銀総裁は「中央銀行のパラダイムは変化している。波及メカニズムが変わり、道具も変わった。われわれの住む世界は大きく変化しており、中央銀行も対応する必要がある」と語る。

「生産性の低い伸び、人口増加率の鈍化、寿命の伸びといった問題が立ちはだかっており、これらの要因はすべて、中央銀行にとって重要な変数に影響を及ぼす」という。

 日銀は先月、資産購入の量よりも金利を重視する政策に移行し、大規模な量的緩和が持続不可能になりつつあることを暗に自白した。政策が思うような効果を発揮しなかったと認めるのは珍しいことだ。

 前日銀理事でみずほ総合研究所・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は「3年半も大規模な緩和を続けたにもかかわらず、人々の予想物価上昇率がバックワードルッキングなのであれば、金融緩和の不足が問題の在りかではないということだ」とし、「マネーの量は既に潤沢だと思う」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不法移民取り締まり、ニューオーリンズでも開始 国土

ワールド

ウクライナ協議、次の展開不透明とトランプ氏 米ロ会

ワールド

イスラエルに人質1人の遺体返還、残り1人か ラファ

ビジネス

米の同盟国支援縮小、ドルの地位を脅かす可能性=マン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中